2023-09-08 九州大学
ポイント
- 日本では森林の成熟によって豪雨による土砂災害が変化しています。
- 林齢の異なる人工林で発生した土砂災害を対象として,土砂災害を引き起こした降雨および発生流木量を比較しました。これにより,森林の成熟が土砂災害に及ぼす正と負の影響を明らかにしました。
- 本研究の成果は,気候変動下における土砂災害対策や森林資源の管理の方向性を考える上で役立つことが期待されます。
概要
森林の土砂災害防止機能は森林の成熟に伴い向上することが明らかになっています。日本では森林の成熟によって全国的に豪雨による土砂災害が減少してきました。一方,近年の土砂災害では大径化した樹木が流木として流出して被害を拡大する事例が見られます。土砂災害対策や森林資源の管理を行う上で,森林の成熟が土砂災害に及ぼす影響を総合的に検討する必要があります。
本研究では,林齢の異なる人工林で発生した表層崩壊(※1)を比較することで森林の成熟が土砂災害に及ぼす正と負の影響を明らかにしました。
九州大学大学院生物資源環境科学府 博士後期課程の佐藤忠道氏,九州大学大学院生物資源環境科学府 修士課程の香月耀氏,および九州大学農学研究院環境農学部門の執印康裕教授らの研究グループは,1988年に発生した広島県旧加計町の土砂災害(若い森林での土砂災害)と2017年に発生した福岡県朝倉市の土砂災害(成熟した森林での土砂災害)を対象とし,土砂災害を引き起こした降雨および発生流木量を比較しました。その結果,成熟した森林は若い森林と比較して,より規模の大きい豪雨に対して防災機能を発揮できることを明らかにしました。しかし,成熟した森林では,若い森林と比較して土砂災害時の流木量が大きくなることが明らかになりました。
日本は国土の67%が森林であり,その内の約4割は人工林です。現在,人工林の多くは成熟した状態にあります。さらに将来,気候変動による極端豪雨の増加が予想されています。本研究はそのような状況下において,効果的な土砂災害対策や森林資源の管理手法の開発に貢献することが期待されます。
本研究成果は英国の雑誌「Scientific Reports」に2023年8月31日(木)(日本時間)に掲載されました。
図-1 加計災害と朝倉災害における三段直列タンクモデルの各タンク貯留量の再現期間の径時変化(図中の黒矢印が示す災害の発生時には,一段目のタンク貯留量の再現期間が最も大きいことから表層崩壊の発生には一段目のタンク貯留量が関与していると考えられる。また,加計災害と朝倉災害で災害発生時の再現期間を比較すると,加計災害では23.6年,朝倉災害では69.8年となる。)
用語解説
(※1) 表層崩壊
表層土が斜面上の土層と基岩層の境界に沿って滑落する比較的小規模な崩壊現象。表層土だけでなく深層の地盤までもが崩壊土塊となる比較的規模の大きな崩壊現象である深層崩壊と区別される。
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論文情報
掲載誌:Scientific Reports
タイトル:Evaluation of influences of forest cover change on landslides by comparing rainfall-induced landslides in Japanese artificial forests with different ages
著者名:Tadamichi Sato, Yoh Katsuki, Yasuhiro Shuin
DOI:10.1038/s41598-023-41539-x
研究に関するお問い合わせ先
農学研究院 執印 康裕 教授