ダークマターの小規模なゆらぎをアルマ望遠鏡で初めて検出

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2023-09-07 国立天文台

検出されたダークマターの密度の空間的なゆらぎ
検出されたダークマターの密度の空間的なゆらぎ。ダークマターの密度は、オレンジ⾊が明るいほど⾼く、暗いほど低い。アルマ望遠鏡が捉えた重⼒レンズ効果を受けたクエーサーの姿を、青白色で表している。(クレジット:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), K. T. Inoue et al.)


宇宙空間に漂うダークマターの密度に、3万光年以下という小規模な空間的ゆらぎがあることが、アルマ望遠鏡を用いた観測で初めて明らかになりました。ダークマターの正体を解明するために重要な一歩となります。

ダークマターは、直接光で⾒ることができない物質で、宇宙の質量の⼤部分を占めています。その重力が及ぼす影響は、星や銀河といった宇宙の基本構造が作られる過程で重要な役割を果たしてきたと考えられています。ダークマターの空間分布は一様ではなく、その重⼒によって遠⽅からやってくる電磁波の経路をわずかに変化させます。重⼒レンズ効果と呼ばれるこの現象の観測から、ダークマターは銀河や銀河の集団と似通った分布をしていることが分かっています。しかし、さらに⼩さな規模の分布は、これまで詳しく分かっていませんでした。

近畿大学、東京大学、国立天文台、および台湾中央研究院の研究者から成る国際研究チームは、アルマ望遠鏡を⽤いて、地球から110億光年の距離にあるクエーサー「MG J0414+0534」を観測しました。このクエーサーは、⼿前にある銀河の重⼒レンズ効果によって見掛けでは4つの像に分かれて⾒えます。しかし、今回観測された見掛けの像の位置や形は、手前の銀河による重力レンズ効果のみを考慮して計算したものとは異なっており、銀河よりも小規模でかつ複数のダークマターの塊による、重力レンズ効果が働いていることが分かりました。さらに詳細な解析から、ダークマターの密度に3万光年程度の小さな規模の空間的なゆらぎがあることが判明したのです。これは、これまでに観測されたダークマターのゆらぎよりもはるかに小さな規模です。この結果は、宇宙空間に低速のダークマターが漂っていると仮定した理論的な予測と⼀致するものでした。

ダークマターの塊による重力レンズ効果は非常に小さいため、直接そのものを検出することは極めて困難です。今回は、銀河による重力レンズ効果とアルマ望遠鏡の高い解像度とを組み合わせることで、初めて検出することができました。本研究は、ダークマターの理論を検証し、正体を解明するための重要な⼀歩と⾔えます。

今回の観測の概念図今回の観測の概念図。クエーサーから放出された電磁波は、手前の銀河による重力レンズ効果とダークマターによる重力レンズ効果とによって、観測地点に届く経路が変化する。銀河による重力レンズ効果のみを考慮した場合と、実際に観測された像とのずれから、ダークマターの分布を推定することができる。(クレジット:NAOJ, K. T. Inoue) 画像(1.9MB)

詳細記事

アルマ望遠鏡でダークマター小構造のゆらぎを初検出 ―ダークマターの正体解明へ重要な一歩(アルマ望遠鏡)

補足情報

発表者
井上開輝(近畿大学理工学部理学科 宇宙論研究室 教授)
峰崎岳夫(東京大学大学院理学系研究科 特任教授)
松下聡樹(台湾 中央研究院 天文及天文物理研究所 リサーチフェロー)
中西康一郎(自然科学研究機構 国立天文台 アルマプロジェクト 特任准教授)

共同発表機関
近畿大学
自然科学研究機構 国立天文台

発表論文

K. T. Inoue et al. “ALMA Measurement of 10 kpc-scale Lensing Power Spectra towards the Lensed Quasar MG J0414+0534” in the Astrophysical Journal, DOI: 10.3847/1538-4357/aceb5f

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