2023-08-03 東北大学
大学院理学研究科地球物理学専攻
教授 加藤 雄人(かとう ゆうと)
【発表のポイント】
- 地球極域(注1)に降り込む高エネルギーの電子と大気との衝突過程を精密に計算しました。
- 地球への入射エネルギーが高くかつ入射角度が大きい電子は、低高度になるほど強まる地磁気(注2)の存在によって跳ね返される割合が、従来の研究報告よりも大きいことを明らかにしました。
- 地球に降り込んでくるキラー電子(注3)が地磁気によって跳ね返されることで、衝突頻度の高い領域が80 km以下の低高度と130 kmの高高度との2ヶ所に分かれることを発見しました。オゾンの消失過程に影響を与えるとされるキラー電子の量を正確に理解することに繋がります。
【概要】
地球の極域には宇宙空間からエネルギーの高い電子が降り込み、大気と衝突することによりオーロラや電離圏電子密度の変動などを引き起こしています。東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻の加藤雄人教授、ドイツ・ハイデルベルク大学のパウル・ローゼンダール大学院生(2019年短期留学プログラムJYPE(注4)学生)、国立極地研究所の小川泰信教授、千葉経済大学の田所裕康准教授らによる研究グループは、降り込み電子(注5)と大気との衝突に対して、低高度になるほど強まる地磁気の効果に着目した精密な数値シミュレーションを行いました。その結果、地磁気により電子が跳ね返される効果が予想以上に大きいことを明らかにしました。この効果は電子のエネルギーが高いほど顕著であり、電子の降り込みによるオゾンの消失過程への影響や電離圏電子密度変動を正確に理解する上で重要な知見となります。
本研究成果は、2023年8月2日付で地球物理学分野の専門誌Earth, Planets and Spaceに掲載されました。
図1. 地磁気による跳ね返りの効果を精密に取り入れた計算で得られた、極域大気に降り込んできた電子と大気との衝突率の高度分布(太い実線)。磁力線に平行に降り込んできた場合(点線)や、跳ね返りの効果を含めずに70度の角度で降り込んできた場合(細い実線)を比較すると100 km以下に到達する十万電子ボルト以上の電子による衝突率が1〜2桁低下することを示している。
【用語解説】
注1 極域
南極と北極を「極地」と呼ぶのに対し、少し範囲を広げる際に「極域」と呼ぶ。南極の極域は周辺の海、北極の極域はグリーンランド全域と周辺の海を含めることが多い。
注2 地磁気
地球が持つ固有の磁場。地球からの距離に応じて強度が変化する。極域において高度400 kmでの磁場強度は、おおよそ地表の8割程度である。
注3 キラー電子
宇宙空間にあるエネルギーが高い電子。地球を取り巻くように分布する放射線帯に多く存在する。人工衛星の故障を引き起こす要因となる。
注4 JYPE(Junior Year Program in English)
東北大学が開講する交換留学生のための研究トレーニングプログラム。1年間または半年間のプログラムで、研究室に配属されサポートを受けながら、自分たちの分野の中のカレントトピックについて研究を進める(http://www.jlpk.ihe.tohoku.ac.jp/ja/exchange/)。
注5 降り込み電子
宇宙空間から大気に降り込んでくるエネルギーの高い電子。主に極域で生じており、オーロラの発光を引き起こしたり、電離圏の電子密度を変動させたりすることが知られている。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻
教授 加藤雄人(かとう ゆうと)
(報道に関すること)
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室