2023-06-06 京都大学アイセムス
京都大学アイセムスの藤原敬宏特定准教授、沖縄科学技術大学院大学の楠見明弘教授(京都大学名誉教授・客員教授)、株式会社フォトロンの竹内信司氏らの研究グループは、蛍光分子の1個の感度をもち、究極の速度で撮像が可能な顕微鏡用カメラを開発しました。その撮像速度は、1秒間に3万コマ(ビデオ速度の1,000倍)に達しています。
細胞内の分子は、高速で動いたり、集まったり、離れたりというようにバレエの群舞のような動きをしていると想像されています。しかし、普通のビデオだと、動きが速すぎて、多くの現象を見逃してきたものと思われます。このような分子の群舞を観察するため、研究グループは新しい超高速・超高感度カメラの開発に乗りだし、10年の努力の結果、開発に成功しました。
その結果、細胞膜分子が動き回る様子が見えるようになりました。従来、細胞膜の分子はバレエ劇場の舞台(細胞膜全体)のようなところで乱雑に動き回っていると思われてきましたが、よく見えるようになると、実は舞台がパーティションで仕切られていて、分子はパーティションの中では速く動きつつ、ときどき隣のパーティションに移動するというような振る舞いをすることが分かりました。
また、2014年のノーベル化学賞を受賞した超解像蛍光顕微鏡法という方法があるのですが、それには重大な欠陥がありました。1枚の画像を撮影するのに5分以上もかかっていたのです。本カメラの開発により、撮像時間が10秒程度に短縮できました。これによって初めて、細胞内の構造が、生きている細胞の中で、超解像の精度で見えるようになりました。
細胞膜には、細胞の足である「接着斑」という構造が存在し、ガン細胞の転移などに関わっています。この超解像画像が刻々と変化する様子と、そこでの分子の群舞の様子も、本カメラの開発の結果分かってきました。
本成果は、The Journal of Cell Biology誌で、2報同時に発表されました。
(左)超高速撮像可能な顕微鏡用カメラで観察された細胞膜の分子(諸仏)は、アクチン繊維に囲まれた空間(マンダラのような個別空間)内を踊るように移動し、時折境界を飛び越える挙動を示した。 (右)超解像蛍光顕微鏡法での撮影の大幅な高速化で、時間を大幅に短縮することが可能に。高速で点描何を描くように、蛍光分子の分布が浮き上がってくる。(©️高宮ミンディ/京都大学アイセムス)
詳しい研究成果について
細胞膜上の分子がバレエの群舞のように見えてきた: 1蛍光分子の感度で、究極速度で撮像できるカメラを開発
書誌情報
論文タイトル:“Development of ultrafast camera-based single fluorescent-molecule imaging for cell biology”(超高速カメラの開発による細胞生物学研究のための超高速1蛍光分子イメージング法)
著者:Takahiro K. Fujiwara, Shinji Takeuchi, Ziya Kalay, Yosuke Nagai, Taka A. Tsunoyama, Thomas Kalkbrenner, Kokoro Iwasawa, Ken P. Ritchie, Kenichi G.N. Suzuki, and Akihiro Kusumi
論文タイトル:“Ultrafast single-molecule imaging reveals focal adhesion nano-architecture and molecular dynamics”(参考訳:超高速1分子イメージング法による、接着斑ナノ構造分子動態の解明)
著者:Takahiro K. Fujiwara, Taka A. Tsunoyama, Shinji Takeuchi, Ziya Kalay, Yosuke Nagai, Thomas Kalkbrenner, Yuri L. Nemoto, Limin H. Chen, Akihiro C.E. Shibata, Kokoro Iwasawa, Ken P. Ritchie, Kenichi G.N. Suzuki, and Akihiro Kusumi
Journal of Cell Biology |DOI: 10.1083/jcb.202110160
Journal of Cell Biology |DOI: 10.1083/jcb.202110162