今世紀末の日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)の将来変化を初めて予測 ~JPCZに伴う日本海側の降水量変化が明らかに~

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2023-05-11 九州大学

ポイント

  • 地球温暖化が進行しているにもかかわらず、局地的豪雪による深刻な被害が近年も頻繁に発生しています。減災・防災の観点から局地的豪雪の将来変化の予測が求められています。
  • 本研究で、局地的豪雪をもたらす日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)が今世紀末にはどのように変化し、日本海沿岸地域の降水分布にどのような変化をもたらすのかを初めて予測すると共に、その変化の要因を明らかにしました。
  • 要因解明は、日本海沿岸地域における大雪発生頻度や山岳域の水資源の将来予測の不確実性を低減していく事にも繋がります。

概要
日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)が関係する局地的豪雪による被害が近年頻発しています。地球温暖化が進行していくと、JPCZの変化に伴って日本海沿岸地域の冬季降水がどうなるのかよくわかっていませんでした。本研究で、九州大学大学院理学研究院の川野哲也助教、川村隆一教授、理学府修士課程2年の安清莉奈大学院生(研究当時)らの研究グループは、温室効果気体の最大排出量シナリオで今世紀末の気候を予測した全球気候モデルの結果に基づき、領域気象モデルによる力学的ダウンスケーリング実験からJPCZの変化傾向を調査したところ、JPCZは北偏し、関連して本州中部山岳域の冬季降水量(降雪量と降雨量の和)は減少するものの、東北地方では日本海側を中心に降水量の顕著な増加が生じる可能性が高いことを初めて明らかにしました。
JPCZはメソスケールの現象のため、全球気候モデルの空間解像度では十分に再現できません。そこで、全球気候モデルで予測された将来気候を背景場にして領域気象モデルによる高解像度数値シミュレーションを実施することで、JPCZ自体の将来変化を見出すことに成功しました。局地的豪雪の発生にJPCZが関与している事例が多いため、これらの知見は日本海沿岸地域における大雪発生頻度や山岳域の水資源の将来予測の信頼性の向上に資することが期待されます。またJPCZとそれに伴う降水分布の将来予測の信頼性を更に高めるためには、日本海の海面水温の高解像度の将来予測の影響を詳しく調べていく必要があります。
本研究成果は,2023年5月10日に国際学術誌「Scientific Online Letters on the Atmosphere」にオンライン掲載(早期公開)されました。また本研究はJSPS科研費補助金(JP19H05696、 JP20H00289)の助成を受けました。

(a)現在気候におけるJPCZ出現時の降水量分布。JPCZピーク時の12時間積算降水量で示す。(b) 図(a)と同様、ただし今世紀末(2090年代)。

用語解説
注1) JPCZ
空間スケールは全く異なるが熱帯収束帯(ITCZ)という用語を参考にして、日本海寒帯気団収束帯(Japan Sea polar airmass convergence zone; 略してJPCZ)と呼ぶようになった(浅井、1988)。JPCZの形成要因として、先ず朝鮮半島の北に位置する長白山系の障壁効果が挙げられるが、朝鮮半島周辺の海岸線の形状に伴う海陸間の温度差や日本海の海洋前線である亜寒帯フロントの寄与も指摘されている。

注2) メソスケール
地上天気図に見られる高気圧や温帯低気圧の空間スケール(総観スケール)より小さい、20~200km程度を中心とした水平スケールを指す。メソスケールはさらに細分化されているが、研究者によって定義が異なる場合がある。

論文情報
掲載誌:Scientific Online Letters on the Atmosphere
タイトル:A projection of future JPCZs by WRF dynamical downscaling simulations based on MIROC6 ScenarioMIP ssp585
著者名:Tetsuya Kawano, Rina Yasukiyo, Ryuichi Kawamura, and Takashi Mochizuki
DOI:10.2151/sola.2023-014

研究に関するお問い合わせ先
理学研究院 川野 哲也 助教
理学研究院 川村 隆一 教授

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