2023-04-17 新エネルギー・産業技術総合開発機構
NEDOの「余剰バガス原料からの省エネ型セルロース糖製造システム実証事業」の一環で、東レ(株)とDM三井製糖(株)は、タイにおいて、製糖工場で発生するサトウキビの搾りかす(バガス)などを原料として、各種バイオ化学品の共通原料となる食糧と競合しない植物由来の糖(非可食糖)を製造するシステムの実証に成功しました。これにより、石油由来の化学品を、食糧と競合しない植物(非可食植物)由来の化学品に代替することができ、循環型社会の実現が可能になります。本実証では、糖液を分離膜により濃縮することで、従来比50%以上の省エネ化を実現するとともに、精製した非可食糖がエタノールやコハク酸製造の発酵原料として利用できることを確認しました。
今後、東レ(株)とDM三井製糖(株)は、非可食糖製造の事業化を目指すとともに、タイ国内での本システム普及によるエネルギー政策への貢献につなげていきます。また、製糖企業やでんぷん製造企業などのバイオマス保有者や化学メーカーと協力し、非可食植物由来の化学品を製造するサプライチェーンの構築を目指します。
NEDOはこのような先進的技術の海外実証事例を増やしていくことで、日本のエネルギー関連産業の普及展開やエネルギーセキュリティーの強化、さらには国内外のエネルギー転換・脱炭素化に貢献します。
図1 膜分離技術を用いたバガスからの非可食糖製造フロー
1.概要
タイ政府は「石油代替エネルギー開発計画(AEDP2015)」で再生可能エネルギー電源比率の引き上げを目標に掲げるとともに、今後の成長戦略を示す「タイランド4.0」で、バイオ化学品産業を将来の産業基盤の一つとして位置付けており、タイ国内で同産業が今後活発化していくことが見込まれています。
また、世界トップレベルのサトウキビ生産量を誇るタイでは、砂糖を生産する際に大量のサトウキビの搾りかす(バガス)が排出されます。しかし、そのほとんどは有効利用されることなく「余剰バガス」として焼却処分され、PM2.5(微小粒子状物質)といった大気汚染物質を発生させるため、環境問題を含む大きな社会課題となっています。一方、「余剰バガス」は糖化させることにより、バイオエタノールや乳酸などのバイオ化学品を製造する際に原料となる食糧と競合しない植物由来の糖(非可食糖)の原料として有効利用できますが、消費エネルギーが大きく、また糖化酵素費も高価なため、より効率的なシステムになるように改良することが、製造技術の普及を図る上で必要です。
このような背景の中、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は2016年より「余剰バガス原料からの省エネ型セルロース糖製造システム実証事業※1」を実施しています。本事業において、東レ株式会社とDM三井製糖株式会社は2017年にCellulosic Biomass Technology Co. Ltd.(本社:タイ王国バンコク市)の事業所に非可食糖製造技術の実証プラント(図2)を建設し、2018年8月から2022年12月まで運転※2、2023年3月までに製造工程における省エネ効果や生産物の性能、システムの経済性などの検証や評価を行いました。その結果、製糖工場で発生する「余剰バガス」を原料として、各種バイオ化学品の共通原料となる非可食糖を従来よりも50%以上省エネで製造するシステムの実証に成功しました。また、精製した非可食糖がエタノールやコハク酸製造の発酵原料として利用できることも確認しました。これにより、石油由来の化学品を、食糧と競合しない植物(非可食植物)由来の化学品に代替し、循環型社会の実現が可能になります。
図2 非可食糖製造技術実証プラント(タイ王国ウドンタニ県)
2.今回の成果
(1)省エネ型非可食糖製造システムの実証
水処理分離膜の技術と、酵素を活用したバイオ技術を融合した「膜利用バイオプロセス※3」により、非可食糖を精製・濃縮する技術を実証プラントで検証し、以下の成果が得られました。
- 余剰バガスから非可食糖、オリゴ糖、ポリフェノールを製造するシステムを72時間連続で運転させることに成功しました。
- 非可食糖製造においてコスト高の要因となる酵素を膜で回収・再利用することにより、酵素使用量を50%削減できることを実証しました。
- 従来は糖液に含まれる水分を熱によって蒸発濃縮していましたが、膜を利用することにより50%以上の消費エネルギー削減が可能であることを実証しました。
- タイでのシステム普及に向けて、現地タイ人技術者へ技術移管を行いました。
- 応用実証として、自製糖化酵素を用いた実証に成功しました。
- 他原料バイオマスとして、タイで排出されるキャッサバパルプ(でんぷん製造の際に発生するキャッサバ芋の絞りかす)の糖化液も本プラントで精製・濃縮できることを確認しました。
(2)生産物の性能評価
本プロセスの分離膜を用いて有機酸のような不純物と分離することで精製した非可食糖が、エタノールやコハク酸製造の発酵原料として利用できることを確認しました。また、生産物である非可食糖やオリゴ糖、ポリフェノールの品質・効用・安全性の評価やマーケティングを進め、市場性や市場開発の道筋を確認しました。
3.今後の予定
今後、東レ(株)とDM三井製糖(株)は石油由来の化学品を非可食植物由来の化学品に置き換えていくため、非可食糖製造の事業化を目指すとともに、タイ国内で本システムを普及させることで、同国エネルギー政策への貢献につなげていきます。また、製糖企業やでんぷん製造企業などのバイオマス保有者や化学メーカーと協力し、非可食植物由来の化学品を製造するサプライチェーンの構築を目指します。
NEDOはこのような先進的技術の海外実証事例を増やしていくことで、日本のエネルギー関連産業の普及展開やエネルギーセキュリティー、国内外のエネルギー転換・脱炭素化に貢献します。
【注釈】
- ※1 余剰バガス原料からの省エネ型セルロース糖製造システム実証事業
-
- 事業名:エネルギー消費の効率化等に資する我が国技術の国際実証事業
- 研究開発項目:余剰バガス原料からの省エネ型セルロース糖製造システム実証事業
- 事業期間:2016年度~2022年度
- 事業概要:エネルギー消費の効率化等に資する我が国技術の国際実証事業
- ※2 2018年8月から2022年12月まで運転
- (参考)NEDOニュースリリース(2018年7月6日)「タイでサトウキビ搾りかすからエタノール原料などを製造する実証プラントが完成」
- ※3 膜利用バイオプロセス
- 糖化、精製のプロセスに水処理用分離膜を使用することにより、非可食植物から高品質・低コストで糖原料を製造する技術です。
4.問い合わせ先
(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)
NEDO 材料・ナノテクノロジー部 バイオエコノミー推進室 担当:原田、坂井、峯岸
(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)
NEDO 広報部 担当:根本、黒川、橋本、鈴木、坂本