過去60年で世界の森林面積は日本列島2つ分消失~熱帯産林産物への依存の低減と低所得国の能力強化が重要~

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2023-02-21 森林総合研究所

ポイント

  • 過去60年間の世界の森林面積が時間的、空間的にどのように変化してきたのかを土地利用のデータベースを利用して明らかにしました。
  • 森林面積の減少は日本列島の2つ分に匹敵し、主に熱帯地域の低所得国で発生する一方で、温帯地域の高所得国では森林面積は増加していました。
  • 森林減少を抑制するために、高所得国は輸入熱帯林産物への依存を減らし、世界が協力して低所得国の森林減少抑制の能力を強化する必要があることを提案しました。

概要

国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所らの研究グループは、空間的土地利用データを用いて、過去60年間(1960年から2019年)にわたる世界の森林面積変化の時空間パターンを導き出しました。
この間、世界の森林面積は増減差し引きで8,173万ha(1960年の面積に対して2%)の純減で、日本列島の面積3,780万haの2.16倍に上りました。また、森林減少は主に熱帯地域の低所得国で起きていました。
森林減少の抑制に向けて高所得国は輸入熱帯林産物への依存を減らすとともに、世界が協力して低所得国の森林減少抑制の能力を強化していくことが大切と考えられます。
本研究成果は、2022年に刊行された Environmental Research Letters 第17巻の084022に掲載されました。

背景

森林生態系は、気候変動による影響や生物多様性の損失など、持続可能性や社会生態学上の様々な緊急課題に対処する上で不可欠な役割を担っています。世界的な森林面積の減少は、今日もなお重要な課題に位置づけられています。それでは全世界的に森林面積の減少は、いつ、そしてどこで発生してきたのでしょうか。
1990年代初頭、地理学者のアレクサンダー・メイザー(Alexander Mather)は、森林の拡大と経済成長は密接に関連しているとし、Forest Transition理論(以下FT理論とします)を提案しました。この理論では、一般に国の経済が成長するにつれて森林面積は減少していくという仮説に依拠しつつ、経済が発展すると森林面積が増加するという変化傾向の転換が起きるとしています。新しい政策を取ることによって森林面積が純増に転ずれば、森林の増加とそれに伴う炭素隔離が気候変動を遅らせ、生物多様性の損失を回避し、生態系サービスのさらなる悪化を防ぐ可能性が高まります。
本研究では、過去60年間の世界的な森林変化の時空間パターンを明らかにするとともに、社会経済状態と森林面積の増減の関係を分析しました。

内容

1960年から2019年までを網羅するグローバル土地利用データセットを用いて解析しました。同データセットは、人工衛星などリモートセンシングによるデータと各国の土地利用統計に基づく世界的なデータベースを空間モデリングによって構築した土地利用変化に関するもので、地理情報システム(GIS)を利用して、空間と時間における森林面積の変化を調べました(図1a)。
分析の結果、過去60年間で世界の森林面積は1960年の41億8,766万haから2019年の41億593万haへと8,173万ha(1960年の面積に対して2%)の純減となっていました。この面積は日本列島の約二つ分に匹敵します。純減の内訳は減少が4億3,730万ha、増加が3億560万haでした。この間の人口増(46.8億人)を考慮すると、一人当たりの森林面積は1960年の1.4haから2019年の0.5haへと60%以上減少したことになります。
また、多少の変動はあるものの、森林面積が純減した国・地域の数は増える傾向にあり、純増の国・地域の数は少なくなっていました(図1b上)。全地域で見ても1970年以降、10年単位では森林面積の減少が増加をずっと上回っています(図1b下)。社会経済との関係を見ると、主に熱帯地域の低所得国1で森林減少が起き、温帯地域の高所得国では増加していました。経済成長は森林の純減よりも純増と強い相関を有しており、このような森林変化の時空間パターンの変化傾向は、FT理論と合致しています。この研究で得られた成果は、世界の森林がどのように変化してきたか、さらに森林変化の時空間パターンがどう関連しているかを地球規模のデータと長期の時間スケールで明らかにした独自性の高いものです。

過去60年で世界の森林面積は日本列島2つ分消失~熱帯産林産物への依存の低減と低所得国の能力強化が重要~
図1 過去60年間における森林変化の地域特性。 a 各年代開始時の森林面積に対する国レベルの変化率(森林の純減はマイナス、森林の純増はプラス)b 上段:世界銀行が定義する各地域の国数(所得水準に基づく)に対する森林の純減国および純増国の割合。下段:所得区分による各地域での森林の純減・純増の範囲(面積:百万 ha)。「全地域」は全ての区分の合計を意味する。

今後の展開

熱帯林が重要なのは、その貴重な生態系サービスにあり、熱帯での生息地の損失を温帯での生息地の増加によって直接補うことができないからです。しかし熱帯林は、ほとんどが開発途上国に存在しています。これらの国々は、社会経済の改善と環境保全という2つの並行する課題による大きな圧力にさらされています。本研究では、調査結果と考察に基づき、次の3点を提案します。
(1)世界の違法木材取引の監視と森林認証政策を強化すること、(2)熱帯地域の低所得国での森林減少を抑制するために、高所得国は輸入熱帯林産物への依存を減らすこと、(3)森林減少を抑制するために世界が協力して熱帯地域の低所得国の能力を強化すること、です。
本研究によって、多くの方が熱帯地域での森林減少への対策の必要性を理解してくださることを期待しています。

論文

論文名:Spatiotemporal pattern of global forest change over the past 60 years and the forest transition theory(過去60年における世界の森林変化の時空間パターンとForest Transition理論)
著者名:Ronald C. Estoque, Rajarshi Dasgupta, Karina Winkler, Valerio Avitabile, Brian A. Johnson, Soe W. Myint, Yan Gao, Makoto Ooba, Yuji Murayama, Rodel D. Lasco
掲載誌:Environmental Research Letters
DOI:10.1088/1748-9326/ac7df5
研究費:文部科学省科学研究費補助金「20K13262, 22K01038」

共同研究機関

地球環境戦略研究機関、国立環境研究所、筑波大学、ワーヘニンゲン大学研究所、カールスルーエ工科大学、欧州委員会共同研究センター、アリゾナ州立大学、メキシコ国立自治大学、フィリピン世界アグロフォレストリーセンター

用語解説

1 低所得国と高所得国
本研究で採用した世界銀行による分類(2016-2017年版)では、一人当たりの国民所得が1,025米ドル以下の国を「低所得国」、1,026米ドルから4,035米ドルまでの国を「下位中所得国」、4,036米ドルから12,475米ドルまでの国を「上位中所得国」、12,476米ドル以上の国を「高所得国」としています。「高所得国」以外の3つの国々は、開発途上国として分類されます。

参考情報

本論文の成果は、以下の記事でも参照することができます。
IOP Publishing(外部サイトへリンク)(論文が掲載された雑誌の出版社)
ScienceDaily(外部サイトへリンク)
EurekAlert(外部サイトへリンク)
Mongabay(外部サイトへリンク)

お問い合わせ先

研究担当者:
森林総合研究所 生物多様性・気候変動研究拠点 主任研究員 エストケ・ロナルド・カネーロ(ESTOQUE Ronald Canero)

広報担当者:
森林総合研究所 企画部広報普及科広報係

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