ガラスの流動化を生み出すミクロな構造

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90年来の未解明問題の解明:Herschel-Bulkley則の構造起源

2021-09-03 東京大学

セメントやマヨネーズ、歯磨き粉など、身の回りの多くの物質は静置状態では流動せず固体的に振る舞いますが、一定以上の力を加えると流体のように流れます。こうした性質を利用することで、例えば歯磨き粉の場合には適量を歯ブラシの上に乗せることができます。降伏流体と呼ばれるこれらの物質は、普遍的にHerschel-Bulkley則と呼ばれるレオロジー法則に従うことが経験的に知られていました。統計力学的観点では、分子などの構成要素が持つミクロな構造や運動がマクロな物性を決定すると期待されますが、Herschel-Bulkley則のミクロな起源は、同法則の発見から90年以上たった今も未解明のままでした。
日本学術振興会の大山倫弘特別研究員(研究当時)、東京大学大学院総合文化研究科の水野英如助教、池田昌司准教授は、コンピュータシミュレーションと理論解析を用いて、Herschel-Bulkley則に従う最もシンプルな物質である単純ガラスにおいて、同法則のミクロな構造起源の解明に成功しました。
本研究では、まず基準振動解析という手法を拡張し、外力により流動化したガラスに適用することで、流動化の起源となるミクロな構造が虚数振動数を持つ固有振動モードとして抽出できることを発見しました。さらに降伏臨界性に立脚した理論的解析により、それらの特徴的構造から定量的にHerschel-Bulkley則が説明できることを示しました。このことは、本開発手法で抽出された構造こそが同法則のミクロな起源とみなせることを意味します。
本研究成果は、マクロなレオロジー特性にミクロな構成要素の観点での理解を与えるものです。本研究で開発した手法をより複雑な物質に適用できるように拡張することができれば、将来的に様々な物質のレオロジー特性の設計指針が獲得できるようになると期待されます。
ガラスの流動化を生み出すミクロな構造

開発手法で抽出したHerschel-Bulkley則のミクロな構造起源の可視化結果。赤色の粒子が流動化の核を形成している。黒い線は虚数振動数を持つ特異な振動パターンを示す。流動速度が遅いときは線状のパターンが観察される(左図:縦方向の線状パターン)が、速度の上昇に伴い複数の線状パターンが同時に観察されるようになり(中央図)、極めて高速の場合には複数の線状パターンが合一し、複雑な構造が形成される(右図)。

詳しい資料は≫

論文情報

Norihiro Oyama*, Hideyuki Mizuno, Atsushi Ikeda, “Instantaneous Normal Modes Reveal Structural Signatures for the Herschel-Bulkley Rheology in Sheared Glasses,” Physical Review Letters: 2021年9月3日, doi:10.1103/PhysRevLett.127.108003.
論文へのリンク (掲載誌)

1701物理及び化学
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