気候変動による水稲(コメ)の収量や外観品質への影響は従来の予測以上に深刻である

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高温と高CO2の複合影響を組み込んだ最新のモデルによる予測

2021-07-19 農研機構

ポイント

農研機構は、屋外での栽培実験の結果に基づいて、高温と高CO2の複合的な影響を考慮した水稲の生育収量予測モデルを構築し、これを用いて気候変動による国内の水稲(コメ)の収量および外観品質への影響を予測しました。その結果、従来のモデルによる予測と比べ、最新のモデルではコメの収量の減少や、外観品質の低下がより早く深刻化することが分かりました。本成果は、このような被害を軽減するために生産現場で必要とされる高温耐性品種や栽培管理技術の導入の目安、および国・自治体による気候変動適応計画の策定や更新の際の重要な基礎情報となります。

概要

平成30年に気候変動適応法が施行され、国や自治体における気候変動適応計画策定が必要になりました。そのため、気候変動による影響について信頼性の高い予測へのニーズが高まっています。水稲はわが国の基幹作物であり、気候変動による収量や白未熟粒1)など外観品質2)への影響予測を、農研機構を含め様々な研究グループが継続的に実施しています。農研機構は、品種や移植日、肥料投入量等の栽培管理データと、気温や日射量等の日々の気象データから、水稲の発育過程(出穂・開花期や成熟期)と玄米収量を予測する「水稲生育収量予測モデル3)」を構築し、これを使って水稲の収量予測などを行ってきました。

一方で、CO2濃度を現在よりも200ppm高い約580ppmに制御した屋外栽培実験「開放系大気CO2増加(Free air CO2 enrichment、FACEフェイス)実験4)」を岩手県と茨城県で実施したところ、CO2濃度の上昇により光合成が活発になる「増収効果」が栽培地の気温が高いほど小さくなること、高CO2では外観品質が低下するなど新たな知見が得られました。そこで、従来は別個に考慮していた「高温」と「高CO2」の影響を複合的に考慮する最新の水稲生育収量予測モデルを構築し、これを使って気候変動による国内の水稲の収量および外観品質への影響を予測しました。

複数の気候予測シナリオ5)を入力して、日本全体の1981年から2100年までの水稲の収量(各シナリオの平均値)を予測したところ、温室効果ガスの排出によってCO2濃度が上昇し続け日本での気温上昇が大きくなる条件(温室効果ガス排出シナリオ6)のRCP8.5)では、1981~2000年の20世紀末を基準に、従来の予測モデルでは今世紀中頃までは増収傾向、以後減収に転じ今世紀末は20世紀末と同等に戻るのに対し、最新の予測モデルでは従来のモデルでの算定値を下回り、その差は年代が進むにつれて拡大し、今世紀末には約80%に減収すると予測され、水稲の収量減がより早く深刻化することが分かりました。

また、外観品質低下の主要な指標である「白未熟粒率」について、収量と同様にCO2濃度が上昇し続ける条件の複数の気候予測シナリオを用いて、日本全体の1981年から2100年までの全国平均値(各シナリオの平均値)を予測したところ、気温のみを考慮した従来の推定モデルでは、白未熟粒率は、今世紀半ばでは約15%、今世紀末では約30%と予測したのに対し、気温とCO2濃度を考慮した最新の推定モデルでは、白未熟粒率は、今世紀半ばでは約20%、今世紀末では約40%と予測しました。

今回得られた気候変動の影響予測結果は、今後、自治体などによる気候変動適応計画の策定や更新の際の重要な基礎情報となります。なお、暑さに強い高温耐性品種、および被害軽減のための移植(田植え)期の移動や適切な施肥管理など新たな栽培技術といった適応策の農業現場への導入により、ここで示した深刻な影響は軽減されるものと期待されます。

関連情報

予算:環境研究総合推進費「S-18」、運営費交付金

問い合わせ先

研究推進責任者 :
農研機構農業環境研究部門 所長 岡田 邦彦

研究担当者 :
同 気候変動適応策研究領域 主席研究員 西森 基貴

農研機構北海道農業研究センター 寒地畑作研究領域
主席研究員 石郷岡 康史

広報担当者 :
農研機構農業環境研究部門 研究推進室(兼本部広報部) 杉山 恵

詳細情報

開発の社会的背景と経緯

平成30年に施行された気候変動適応法により、国や自治体において気候変動適応計画の策定が必要になっており、そのための基礎情報として信頼できる気候変動影響予測が重要になっています。同法では適応計画はおおむね5年毎に改定するとされており、それに対応して、最新のモデルによる信頼性の高い気候変動影響の再評価を実施する必要があります。

水稲はわが国の基幹作物であり、農研機構は、重点的かつ継続的に気候変動の影響を評価してきました。農研機構のこれまでの研究では、高温と高CO2を別個に扱う従来のモデルの予測から、CO2濃度上昇によって光合成が促進される増収効果により、収量への悪影響は西日本などに限られる、と考えてきました。

ところが、水稲を対象としたFACE 実験が国内2か所で実施され、高CO2によるコメの増収効果は高温条件で低下する、高CO2は白未熟粒率を高める、といった新たな知見が得られました。すなわち、FACE実験で得られた高温・高CO2複合影響に関する新たな知見から、従来のモデルによる水稲収量および品質に関する影響を予測した結果が楽観的である可能性が示唆されました。そこで、これらの知見が反映された最新のモデルを使用した、全国を対象とした水稲収量および外観品質に関する気候変動影響の再評価が必要になりました。

研究の内容・意義

1.FACE実験により、CO2濃度を現在よりも200ppm高い約580ppmに制御した高CO2濃度では、水稲増収効果は登熟期間の気温が高いほど低下し、出穂後30日間の平均気温が20°Cでは約+20%ですが、気温の上昇に伴い増収効果は減少し30°Cではほぼ0%になるという結果が得られています。この関係を従来の水稲生育収量予測モデルに組み込んで、高温と高CO2の複合影響が考慮された収量推定が可能になりました。

2.FACE実験により、高CO2濃度では、白未熟粒の発生率が1.5倍になるという関係が得られています。出穂後20日間の平均気温26°C以上の積算値を使用した既存の白未熟粒率推定モデルにこの関係を組み込み、CO2濃度の影響が反映されるよう、外観品質低下の主要な指標である白未熟粒率推定モデルを改良しました。

3.2種類の温室効果ガス排出シナリオ(RCP2.6、8.5)に基づく5種類の気候モデル7)による気候予測シナリオにより、1981年から2100年までの120年間の水稲収量と白未熟粒率の推定を、新たに改良された最新のモデルと従来のモデルで行いました。
CO2濃度が増加し続ける温室効果ガス排出シナリオ(RCP8.5)に基づく気候予測シナリオで、全国の平均収量は、最新の予測モデルでは従来よりも今世紀半ばの平均で約15%、今世紀末の平均で約20%も少なく算定され、両予測モデル間の差は年代が進むにつれて拡大しています。その結果、20世紀末に対して今世紀末の平均収量は、従来の予測モデルでは20世紀末と同等であるのに対し、最新のモデルでは約80%に減収すると予測され、水稲の収量減がより速く深刻化することが示されました(図1a)。
また、白未熟粒率の全国平均は、気温のみを考慮した従来の推定モデルと比較してCO2濃度も考慮した最新の推定モデルの方が、今世紀中頃の平均で約5%、今世紀末の平均で約10%高く算定されるなど、両推定モデル間の差は年代が進むにつれて拡大しています。その結果、今世紀末の白未熟粒率は従来のモデルでは約30%と予測されたのに対し、最新では約40%と予測され、外観品質の低下がより早く深刻化することが示されました。(図1b)。

4.最新のモデルと従来のモデルによる結果を年代ごとにマップ化することで、予測された影響が大きく変化する地域や時期を明確にでき、具体的な適応策導入の検討に役立てることが可能です。気候モデルMIROC-5(気温上昇の予測が中庸)によるRCP8.5での今世紀中頃(2031-2050)の予測では、平均収量は従来の予測モデルでは限られた地域以外では増収が予測されておりますが、改良された最新の予測モデルでは減収となる地域が広い範囲に拡大しています(図2)。同様に品質に関しても、白未熟粒率は、気温のみの従来の推定モデルよりも、CO2濃度も考慮した最新の推定モデルの方が高くなっています(図3)。

今後の予定・期待

気候変動適応法では、適応計画はおおむね5年毎に見直すこととされており、そのための最新の科学的知見を基盤とした定期的な気候変動影響の予測が必要となっています。本成果は、国や自治体が適応法に基づき適応計画を策定する際の重要な基礎情報として活用されることが期待されます。なお、本成果では、従来のモデルを用いた結果と比較して、最新のモデルでは収量、外観品質(白未熟粒率)ともに気候変動による負の影響が顕著になりましたが、これは高温耐性が強くない現在の普及品種の環境応答実験で得られた結果を反映したものです。既に栽培が広がってきている高温耐性品種を考慮したり、移植(田植え)期を遅らせて登熟期間の高温を避けたり、適切な窒素施肥管理を行うことで、被害を軽減できるものと考えられます。また、今後、さらに効果の高い新たな高温耐性品種の開発や、低労力かつ効果的な栽培技術の開発・普及が期待されます。本成果は、いつ頃どの程度の被害が起こるかを予測することを通じて、各地で必要とされる高温耐性品種や栽培管理技術の導入計画に活用されることが期待されます。

用語の解説
1)白未熟粒
米粒へのデンプンの蓄積が不十分であるために白く濁って見える状態であり、これが多くなると等級低下の原因になります。登熟期間の高温や低日照で発生が多くなることが分かっていることから、農研機構では、出穂後20日間の平均気温26°C以上の積算値から白未熟粒率を推定する方法を開発しています。
2)玄米の外観品質
水稲から収穫されるコメの品質は、「見た目」と味で判断されますが、このうち「見た目」で判断される品質のことを外観品質といいます。農林水産省の農産物規格規程(玄米の検査規格)では、被害粒、死米、未熟粒(上記の白未熟粒を含む)、異種穀粒及び異物を取り除いたものを整粒といい、この割合(整粒歩合)でコメの等級が決定されます。整粒歩合が70%を超えるものは一等米として、それ以下の等級のものより高値で販売されます。なお、外観品質低下の大きな要因である白未熟粒は、1)に示すようにデンプンの蓄積が不十分で割れやすく、「見た目」だけでなく、食味も低下する場合もあります。
3)水稲生育収量予測モデル
品種や移植日、肥料投入量等の栽培管理データと、気温や日射量等の日々の気象データから、水稲の発育過程(出穂・開花期や成熟期)と玄米収量を予測します。その際、CO2濃度上昇による増収効果も考慮されており、将来予測される温暖化条件での収量予測に利用されます。
4)開放系大気CO2増加 (Free air CO2 enrichment、FACEフェイス) 実験
屋外の囲いの無い条件の水田においてCO2を人工的に増加させ、将来想定される高CO2環境での作物の生理応答特性を解明する目的で実施される実験です。国内では、水稲を対象に岩手県雫石町と茨城県つくばみらい市の2か所で、1998年から2018年にかけて実施されました。
5)気候予測シナリオ
温室効果ガス濃度を予測した「温室効果ガス排出シナリオ(用語解説6参照)」に基づき、複数の気候モデル(用語解説7参照)を用いることで複数の気候予測シナリオが提示されます。これらはデータセットとして、水稲の収量や白未熟粒率を予測するモデルに入力されます。なお本研究では、農研機構が開発した「農研機構地域気候シナリオデータセット」(https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/laboratory/naro/sop/139234.html)を使用しました。
6)温室効果ガス排出シナリオ
人間活動に伴う温室効果ガスの大気中の濃度が、将来どのように変化するかを想定したものであり、想定される社会経済の発展や緩和策(排出削減)実施により、いくつかの濃度変化のパターンが想定されています。本研究では、現在国際的に標準的に用いられているRCP(代表的濃度経路)シナリオのうち、RCP2.6(CO2濃度上昇が低めに推移する)とRCP8.5(CO2濃度が上昇し続ける)を使用しています。
7)気候モデル
地球上の大気や海洋などの中で起こる現象をコンピュータで数値計算し、気候状態をシミュレーションするプログラムであり、温室効果ガス排出シナリオによる条件での将来の気候予測に使用されます。
発表論文

Yasushi ISHIGOOKA, Toshihiro HASEGAWA, Tsuneo KUWAGATA, Motoki NISHIMORI, Hitomi WAKATSUKI (2021) Revision of estimates of climate change impacts on rice yield and quality in Japan by considering the combined effects of temperature and CO2 concentration. Journal of Agricultural Meteorology, 77 (2), 139-149, doi:10.2480/agrmet.D-20-00038

参考図


図1 水稲の収量(a)および白未熟粒率(b)の20年毎の推移(全国平均)(RCP8.5)
白色は従来のモデル、薄赤色は最新のモデルの結果をそれぞれ示します。箱ひげ図は、気候モデルの違いによる結果のばらつきを示し、横線は、上から最大値、75、50、25パーセンタイル値、最小値を、黒丸は平均値を表します。 図2 最新の予測モデルと従来の予測モデルによる水稲の相対収量算定値の分布の比較
高温・高CO2の複合影響を考慮した最新のモデルを用いた計算結果(右図)では、従来のモデルを用いた結果(左図)に比べ、青系の収量増加域が狭くなり、黄色から赤系の減収域が広がっています。

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