遠くの恒星のように太陽を研究

ad

2020-10-09 国立天文台

図:さまざまな波長帯における太陽の明るさ等の変化
さまざまな波長帯における太陽の明るさ等の変化。「活動領域 12699」という符号が付けられた黒点が太陽表面を通過した際の、波長帯ごとの明るさ等の変化を実線で示しています。背景は、黒点が太陽表面の中心付近に到達した時刻の画像。黒点の通過に伴って、光球面から放出される可視光線は減光します。一方、彩層やコロナから放出される紫外線・X線は増光し、遷移層から放出される紫外線は減光を示す場合があることが明らかになりました。(Credit: ISAS/NAOJ) オリジナルサイズ(1.9MB)


太陽観測衛星「ひので」などが取得した観測データを解析したところ、さまざまな波長帯における太陽の明るさの変化とその表面現象との間には、強い相関があることが浮き彫りになりました。この知見を恒星の変光の解析に応用することは、太陽系外惑星の研究にも役立つと期待されます。

太陽は、その表面現象を詳細に観測できる唯一の恒星です。黒点と関連して起こる太陽表面の爆発現象であるフレアは、太陽以外の恒星の表面でも発生しています。しかし、恒星の場合は明るさの変化が捉えられるのみで、黒点の形状などを調べることは困難です。黒点やフレアといった恒星の磁気活動を知るためには、磁気エネルギーがどのように解放され上空へ伝わるのか、黒点の出現・成長によって上空の彩層やコロナがどのように変化するのかを、恒星の明るさの変化から読み解く方法を獲得することが重要です。

国際研究チームは、太陽観測衛星「ひので」をはじめとする4機の観測衛星が取得した膨大な観測データの中から、孤立した黒点が自転によって太陽の表面を通過していく時期のデータを選び出し、太陽全体の明るさの変化とその要因を可視光線からX線にわたる各波長帯で調べました。太陽を点光源として扱うことで、他の恒星にも応用できる形にしたのです。その結果、次のようなことが分かりました。太陽上空の彩層から放出される紫外線は太陽表面の光球の磁束量と強い相関があること、光球から放出される可視光線の明るさの変化と太陽大気であるコロナから放出される紫外線・X線の明るさの変化の間には時間差があり、それがコロナの空間構造に起因すること、彩層とコロナの中間にある遷移層から放出される紫外線は黒点による加熱の影響で減光する場合があること、などです。このように、恒星全体の明るさの変化と表面現象とを結び付けることが可能になったのです。

この研究を発展させると、太陽系外惑星の研究への貢献が期待できます。恒星の前を惑星が通過するときの減光を捉えると、惑星の存在やその大きさなどを知ることができます。黒点も恒星の明るさを変化させる要因ですから、各波長帯で恒星の明るさの変化に黒点が及ぼす影響が分かっていれば、その影響をより正確に取り除くことが可能になります。もちろん、太陽で起こっている現象をさらに深く理解することも重要です。この目的のために次期太陽観測衛星「Solar-C (EUVST)」は、彩層からコロナまで幅広い温度帯で放出される紫外線を隙間のない波長帯で高い感度で観測します。太陽を通じて恒星への理解が、今後さらに進んでいくと期待されます。

この研究成果は、S. Toriumi et al. “Sun-as-a-star Spectral Irradiance Observations of Transiting Active Regions”として、米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に2020年10月8日付で掲載されました。

1701物理及び化学
ad
ad
Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました