構造材開発の知見を電池に生かす 低コストかつ大容量蓄電池の実現へ前進
2020-09-30 物質・材料研究機構,科学技術振興機構
NIMSは、従来の材料よりも電気化学的活性に優れるマグネシウム合金材を開発し、マグネシウム金属電池の容量を約20パーセント向上させることに成功しました。これまで手付かずだった負極材の開発の方向性を示したことで、低コストかつ大容量なマグネシウム金属電池のさらなる性能向上が期待されます。
風力や地熱、太陽光など再生可能エネルギーや、発電所から生じる余剰電力を有効活用するためには、これらのエネルギーを貯蔵し、必要なときに供給できる大容量の蓄電池が必要です。現状のリチウムイオン電池は、コバルトやリチウムなど希少な金属が使われており、大型化には膨大なコストがかかります。そこで注目されているのがマグネシウム金属電池です。マグネシウムは地殻埋蔵量がリチウムの1700倍以上であるため安価で、かつ多くの電気エネルギーを貯蔵できます。しかしマグネシウムは加工しにくい金属のため、マグネシウム金属が使われる負極に対する研究はほとんど実施されておらず、マグネシウムの扱いにくさが電池としての特性向上を妨げる大きな要因となっていました。
今回、マグネシウム電池電解質開発を専門とする研究者と、構造材料としてのマグネシウム合金の開発を専門とする研究者が共同研究を展開し、電池特性を向上させるマグネシウム合金の探索を行いました。その結果、結晶方位を制御し、20μm程度の微小な結晶粒で構成されたマグネシウム金属材に、原子濃度0.3パーセントという極微量の異種金属を添加することで、電気化学的な活性を大きく向上させることに成功しました。例えば、カルシウム(Ca)を添加した合金材(Mg-Ca)を負極に用いた電池を試作しその特性を評価したところ、純マグネシウム金属(pMg)を用いた電池と比較して、容量が約20パーセント向上しました。これは、マグネシウム金属の合金化と組織制御で電池特性の改善を達成した、世界初の成果です。
本研究により、マグネシウム金属電池の電池特性の改善に、冶金学的アプローチが有効であることが分かりました。マグネシウム金属は、構造材料分野で精力的に研究されてきた材料です。今後この成果をもとに、大容量マグネシウム金属電池の実現に向けて、金属組織構造の最適化に取り組んでいきます。
本研究成果は、2020年9月25日(英国時間)に英国王立化学会誌「Chemical Communications」にオンライン公開されました。また、本成果は10月13日に発刊される雑誌(vol 56 issue 81)の表紙を飾ることが決まっています。
本研究は、国立研究開発法人 物質・材料研究機構 エネルギー・環境材料研究拠点の万代 俊彦 主任研究員および構造材料研究拠点の染川 英俊 グループリーダーにより、JST 戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発・特別重点技術領域「次世代蓄電池」(ALCA-SPRING)の一環として行われました。
<論文タイトル>
- “Metallurgical approach to enhance electrochemical activity of magnesium anodes for magnesium rechargeable batteries”
- DOI:10.1039/D0CC05373B
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
万代 俊彦(マンダイ トシヒコ)
物質・材料研究機構 エネルギー・環境材料研究拠点 二次電池材料グループ 主任研究員
染川 英俊(ソメカワ ヒデトシ)
物質・材料研究機構 構造材料研究拠点 軽金属材料創製グループ グループリーダー
<JST事業に関すること>
大矢 克(オオヤ マサル)
科学技術振興機構 未来創造研究開発推進部 低炭素研究推進グループ
<報道担当>
物質・材料研究機構 経営企画部門 広報室
科学技術振興機構 広報課