2020-08-25 物質・材料研究機構
NIMSは、光と電圧の二つの入力値で複数の値を記録できる多値メモリ素子を開発しました。本成果は、記録容量の大幅な向上に寄与するだけでなく、光と電子を繋いださまざまな素子に発展することが期待されます。
概要
- 物質・材料研究機構 (以下NIMS) は、光と電圧の二つの入力値で複数の値を記録できる多値メモリ素子を開発しました。特に二次元層状物質の積層構造の中に、蓄積する電荷量を光で調整することにより成功しました。本成果は、記録容量の大幅な向上に寄与するだけでなく、光と電子を繋いださまざまな素子に発展することが期待されます。
- 現代の情報化社会の中で、フラッシュメモリなど情報を記録するメモリ素子が重要な役割を担っています。ここ20年で記録密度は大幅に向上しましたが、ますますIoT化が進む将来に向けて、従来の開発スピードを上回る勢いでデータ処理の高速化や記録容量の大容量化が求められます。しかしシリコンの微細加工技術だけでは大容量化や省電力化に限界が見えてきた今、従来とは異なる動作原理のメモリ素子の開発が求められています。
- そこで本グループでは二次元層状物質を積層したトランジスタ型のメモリ素子を開発しました。半導体の二硫化レニウム(ReS2) がトランジスタチャネル、絶縁体の六方晶窒化ホウ素(h-BN)がトンネル絶縁層、グラフェンがフローティングゲートとして機能し、従来のフラッシュメモリと同様に、フローティングゲートに電荷を蓄積することにより情報を記録します。ReS2は、光で電子と正孔の対を励起させやすく、その数も光の強度で制御可能です。この電子をグラフェン内の正孔と再結合させることで、グラフェン内の電荷量を段階的に減少させることに成功しました。その結果、光と電圧を使い分けながら、電荷の保持量を効率よく多段階に制御した多値メモリの動作を実証できました。さらに主要材料がすべて二次元層状物質であるため、界面が原子レベルで平坦となりリーク電流が低減され省電力化が可能です。
- 本成果は、記録密度の向上や素子の省電力化に寄与するだけでなく、光と電圧を使い分けて電荷の保持量を制御する仕組みを応用し、光ロジック回路や超高感度光センサーなど様々な展開が期待できます。
- 本研究は、国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 量子デバイス工学グループの若山裕グループリーダーおよびBablu Mukherjeeポスドク研究員と中払周主幹研究員の研究チームによって、科研費特別研究員奨励費「二次元原子層膜を使った超高感度光センサーの開発」の一環として行われました。本研究成果はAdvanced Functional Materials誌にて、中央ヨーロッパ時間2020年8月25日12時 (日本時間25日19時) にオンライン掲載されます。
プレスリリース中の図1 : (a)素子構造の模式図。グラフェン・h-BN・ReS2を積層し、ソース・ドレイン電極を配線。(b)電荷の蓄積プロセスを説明するバンド構造。電圧と光でグラフェン内に蓄積する電荷量を調整する。
掲載論文
題目 : Laser-assisted multilevel non-volatile memory device based on 2D van-der-Waals fewlayer-ReS2/h-BN/Graphene Heterostructures
著者 : Bablu Mukherjee, Amir Zulkefli, Kenji Watanabe, Takashi Taniguchi, Yutaka Wakayama, Shu Nakaharai
雑誌 : Advanced Functional Materials
掲載日時 : 2020年8月25日19時 (中央ヨーロッパ時間25日12時)
DOI : 10.1002/adfm.202001688