バイオ3Dプリンタで作製した「細胞製人工血管」を移植する再生医療の臨床研究を開始

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2019-11-13 佐賀大学,日本医療研究開発機構

佐賀大学医学部附属再生医学研究センター 中山功一教授、佐賀大学医学部胸部・心臓血管外科 伊藤学助教及び株式会社サイフューズ(本社:東京都文京区、代表取締役:秋枝静香)は、独自に開発したバイオ3Dプリンタを用いて作製した「細胞製人工血管」を世界で初めてヒトへ移植する臨床研究を開始いたします。

概要

これまで、佐賀大学医学部附属病院(所在地:佐賀県佐賀市)では、株式会社サイフューズと共同で「スキャフォールドフリー(※1)自家細胞製人工血管を用いたバスキュラーアクセスの再建」の臨床研究の開始に向け、準備を進めて参りました。この度、本件に係る再生医療等提供計画を2019年11月7日に厚生労働大臣へ提出し、臨床研究を開始する運びとなりましたのでお知らせいたします。

本臨床研究は、佐賀大学医学部胸部・心臓血管外科 伊藤学 助教を責任医師として、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の支援のもと、株式会社サイフューズと共同で、患者様ご自身の細胞のみから構成される細胞製人工血管を作製し、バスキュラーアクセス(※2)の再建を目的とした臨床研究を実施します。

なお、今回開始する臨床研究は、バイオ3Dプリンタ(※3)を用いた細胞製人工血管を移植する世界初の再生医療となり、バイオ3Dプリンタを使用した新しい治療法を適切かつ安全に患者様にお届けできるよう、進めて参ります。

背景

現在、腎不全等により血液透析(※4)が必要となった場合、人工透析患者の96 %以上がバスキュラーアクセスとして動静脈内シャント(※5)を使用していると言われています。この動静脈内シャントの作製には患者様ご自身の自己血管を用いるか、または自己血管による作製が困難な場合には合成繊維や樹脂といった人工材料から作製される小口径の人工血管が使用されていますが、従来の人工血管は感染しやすく閉塞しやすい等の課題を抱えているのが現状です。

そこで、これら小口径の人工血管の課題を克服するべく、より生体血管に近い人工血管の開発を目指し、佐賀大学と京都府立医科大学及び株式会社サイフューズは、これまでにAMEDの支援を受け、バイオ3Dプリンタ「Regenova®」を用いた細胞塊の積層技術により、細胞のみから構成される小口径の細胞製人工血管(スキャフォールドフリー細胞製人工血管)の開発に取り組んで参りました。これらの成果をもとに、今回、バスキュラーアクセスの再建を目的とし、細胞のみから構成される細胞製人工血管をヒトに移植する臨床研究を実施いたします。

本細胞製人工血管は、人工材料を用いず患者様ご自身の細胞のみから作製されているため、従来の人工材料から作製された人工血管に比べ抗感染性や抗血栓性において有用性が期待されること、また、バスキュラーアクセスの開存性向上やバスキュラーアクセスで繰り返すトラブルによる患者様の苦痛が軽減されること等が期待されます。

バイオ3Dプリンタで作製した「細胞製人工血管」を移植する再生医療の臨床研究を開始
スキャフォールドフリー細胞製人工血管

*本細胞製人工血管を用いた非臨床試験の研究成果は、Nature Communications(Itoh M, et al. Development of an immunodeficient pig model allowing long-term accommodation of artificial human vascular tubes)に発表しています。

臨床研究の流れ
臨床研究の名称:
「スキャフォールドフリー自家細胞製人工血管を用いたバスキュラーアクセスの再建」
対象疾患:
維持透析を要する末期腎不全
臨床研究の概要:
  1. 患者様ご自身の鼠径部などから皮膚組織を約1cmx3cm程度採取します。
  2. (株)ジャパン・ティッシュエンジニアリング(J-TEC:愛知県蒲郡市)内の細胞培養専用のクリーンルームに皮膚片を専用容器で輸送します。
  3. 皮膚片を酵素処理にて細胞を分離し、数日間培養して線維芽細胞(※6)を増殖させ、必要な数の細胞が得られましたら、細胞凝集現象を誘導する専用の培養皿で細胞凝集体(スフェロイド)を作製します。
  4. J-TECのクリーンルーム内に設置した臨床用のバイオ3Dプリンタ(澁谷工業(株)とサイフューズの共同開発)を用いてチューブ状にプリントします。
  5. 細胞製人工血管の強度を高めるよう線維芽細胞にコラーゲン産生を促す培養を行います。
  6. 一定の強度が確認されたら蒲郡から佐賀大学医学部附属病院へ出荷します。
  7. 細胞製人工血管内の細胞を生かしたまま輸送します。
  8. 移植に適しているか細胞製人工血管を担当医が判定します。
  9. 患者さん自身の肘~前腕の動静脈へ移植を行います。
  10. 移植直後から細胞製人工血管の状態を定期的に観察します。


J-TECのクリーンルーム内に設置した臨床用バイオ3Dプリンタ(澁谷工業とサイフューズの共同開発)

用語解説
(※1)スキャフォールド(足場材料)フリー:Scaffold free
再生医療、特に組織工学(ティシューエンジニアリング)の研究分野では細胞だけ集めても複雑な立体化は困難と考えられており、細胞の足場となるポリマーやハイドロゲルなどの生体材料を混和するのが国内外の研究者の常識とされていた。我々の技術は生体材料を用いることなく細胞だけで立体化に成功したため、足場材料無し=スキャフォールドフリーと呼ばれている。
(※2)バスキュラーアクセス
血液透析を行う際に血液を出し入れするための入り口。自己血管内シャントや留置カテーテル、動静脈直接穿刺などいくつか手法がある。
(※3)バイオ3Dプリンタ
多数の細胞などの原料と3次元デザインをセットすると、元のデザイン通りの立体構造体を出力する装置の総称。さまざまな手法が存在するが技術全般をバイオファブリケーションとも呼ぶ。世界で100以上の企業や研究者グループが取り組んでいる。当該研究グループは「剣山メソッド」と呼ばれる独自方式によって細胞だけで外科的操作に耐えられる強度を持った細胞構造体をプリントできる独自のバイオ3D プリンタを開発している。
2019年11月現在、細胞だけで外科的操作に耐えうる立体構造体を作製・出力できるバイオ3Dプリンタは当該研究グループが開発した装置のみである。
(※4)血液透析
腎臓の機能が低下し、体内の老廃物が尿へと排泄されない場合に、血液を毎分200CC程度抜出し、機械によって余分な水分や老廃物を除去し、再び体に戻す治療。
(※5)動静脈内シャント
手術で動脈と静脈を連結し、動脈の血液を直接静脈に流れこませることで、血液透析が円滑に行える十分な血液量を確保させる。
(※6)線維芽細胞
皮膚を構成する主要な細胞でコラーゲンを産生する細胞。皮膚に存在する線維芽細胞は比較的よく増殖する。
本臨床研究への支援

本臨床研究は、下記機関より支援を受けて実施いたします。

  • 国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)
    再生医療実用化研究事業「バイオ3Dプリンタを用いて造形した小口径Scaffold free 細胞人工血管の臨床研究」
  • 株式会社サイフューズ
お問い合わせ先
本件に関するお問い合わせ先

中山 功一(なかやま こういち)
佐賀大学医学部附属 再生医学研究センター 教授

伊藤 学(いとう まなぶ)
佐賀大学医学部 胸部・心臓血管外科 助教

株式会社サイフューズ

AMED事業に関する問合せ

国立研究開発法人 日本医療研究開発機構
戦略推進部再生医療研究課

産学連携部医療機器研究課

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