持続型血糖モニタリング用コンタクトレンズへ応用
2018/10/17 名古屋大学,科学技術振興機構(JST)
ポイント
- 世界最小クラス、超低消費電力の無線送信器回路と、涙に含まれる糖で発電する固体素子型グルコース発電素子で構成される自立動作可能な血糖センサーを新開発。
- コンタクトレンズ方式の持続型血糖モニタリング装置の試作に成功。
- 低侵襲かつ単独自立動作が可能な血糖コンタクトレンズの開発により、糖尿病医療や糖尿病予防に貢献。
名古屋大学 大学院工学研究科の新津 葵一 准教授らの研究グループは、世界最小クラスの発電・センシング一体型血糖センサー(発電とセンシングを同時に行うセンサー技術)を新たに開発しました。これにより、外部からの無線給電などが不要なコンタクトレンズ方式による持続型血糖モニタリング注1)が実現可能となりました。
昨今、糖尿病治療や予防においては、患者自身が血糖値を持続的に把握しコントロールすることが重要となっています。血糖値の測定には、従来、皮下にセンサーを埋め込むなど侵襲性(体内に傷をつける)のある装置が主流となっていました。一方、低侵襲性のタイプでは、血糖濃度と相関のある涙液糖濃度に着目したコンタクトレンズ方式も注目を浴びています。しかし、無線給電用メガネ型端末などが必要となるため、就寝時や運動時の測定に難点があり、普及が進んでいないのが状況です。
今回、これらの難点を克服し、持続型血糖モニタリングの普及に貢献できる技術開発に成功しました。世界最小クラスの固体素子型グルコース発電素子注2)とサブ平方ミリサイズで超低消費電力の半導体無線送信器回路技術注3)を開発し、それらを融合した発電・センシング一体型血糖センサーを搭載したコンタクトレンズを試作しました。涙液に含まれる糖(グルコース)での発電により、コンタクトレンズのみでの自立動作が可能となりました。本研究成果により、低侵襲かつ低コストでの持続型血糖モニタリングの実現が期待されます。
この研究成果は、2018年10月17日開催の国際会議IEEE BioCAS 2018で発表されます。
この研究は、2015年度から始まったJST 戦略的創造研究推進事業 さきがけ、総務省 戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)、2016年度からの科学研究費助成事業 若手研究(A)の支援のもとで行われたものです。
<研究の背景>
糖尿病の治療・予防においては、患者が自身の血糖値を継続的に把握し、血糖値をコントロールすることが大変重要です。近年、継続して血糖値をモニタリングすることに対する需要が高まっていますが、皮下にセンサーを埋め込むなど侵襲性(体内を傷つける)があり、また、高価でもあるため、幅広い活用や予防への展開が困難でした。一方、血糖濃度と相関のある涙液糖濃度に着目したコンタクトレンズ型継続血糖モニタリング技術も注目を浴びていますが、従来の技術では無線電力伝送により電気を供給しており、給電専用のメガネ型端末と同時に使用する必要がありました。
<研究内容と成果>
今回、発電・センシング一体型血糖センサー(発電とセンシングを同時に行うセンサー技術)を開発し、外部からの電気供給を必要としない持続型血糖モニタリングコンタクトレンズを試作しました(図)。血糖濃度と相関のある涙液糖濃度によってグルコース発電素子からの出力電圧が変化しますが、半導体集積回路を用いてこの出力電圧を無線発信頻度へと変換することで発電とセンシングの同時動作を実現しています。発電とセンシングを同時に行う固体素子型グルコース発電素子は、わずか0.6ミリメートル角と世界最小クラスで、涙液に含まれる糖(グルコース)を基に1ナノワット以上の電力を生成します。また、データを送信する半導体無線送信器回路技術についても、従来の1万分の1程度の0.27ナノワット(電源電圧は0.165ボルト)で駆動させることに成功しました。この2つの技術を融合し、涙液に含まれる糖をモニタリングしながら、必要な電力を生成することも可能になりました。これらにより、給電用のメガネ型端末も不要になり、コンタクトレンズを装着するだけで継続的に血糖値をモニタリングできます。
本研究成果を受け、今後は、低侵襲かつ低コストな持続型血糖モニタリングの実現が期待されます。
<成果の意義>
持続型血糖モニタリングコンタクトレンズの高性能化、低価格化により、より多くの人が簡便に自身の血糖値を把握できるようになります。今後、糖尿病医療への貢献やヘルスケア用品への展開が見込まれます。
<参考図>
<用語解説>
- 注1)持続型血糖モニタリング
- 継続的に血糖値を計測すること。糖尿病の予防・治療やヘルスケアへの応用が期待される。
- 注2)固体素子型グルコース発電素子
- グルコースを基に電力を生成する素子。
- 注3)半導体無線送信器回路技術
- 無線通信システムのための半導体集積回路技術を用いた送信器回路。
<論文情報>
雑誌名:Proceedings of IEEE Biomedical Circuits and Systems Conference
論文タイトル:“A 385μm × 385μm 0.165 V 0.27 nW Fully-Integrated Supply-Modulated OOK CMOS TX in 65nm CMOS for Glasses-Free, Self-Powered, and Fuel-Cell-Embedded Continuous Glucose Monitoring Contact Lens ”
著者:Kenya Hayashi, Shigeki Arata, Ge Xu, Shunya Murakami, Dang Cong Bui, Takuyoshi Doike, Maya Matsunaga, Atsuki Kobayashi, and Kiichi Niitsu
本成果を得るにあたり協働した学生とその役割(名古屋大学 大学院工学研究科 院生):林 賢哉、荒田 滋樹、許 格、村上 峻哉、ダン コン ブイ(Cong Dang Bui)、土池 拓義、松永 摩耶、小林 敦希:グルコース発電素子および集積回路の設計・評価
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
新津 葵一(ニイツ キイチ)
名古屋大学 大学院工学研究科 准教授
<JST事業に関すること>
松尾 浩司(マツオ コウジ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部
<報道担当>
名古屋大学 総務部 総務課 広報室
科学技術振興機構 広報課