微細藻類バイオ燃料:炭水化物を油脂に変換

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2021-04-09 量子科学技術研究開発機構

発表のポイント

神戸大学先端バイオ工学研究センターの加藤悠一特命助教、蓮沼誠久教授らの研究グループは量子科学技術研究開発機構量子ビーム科学部門高崎量子応用研究所の佐藤勝也上席研究員らと協力して、微細藻類において炭素リソースを炭水化物から油脂に再分配する手法を開発しました。バイオ燃料生産での活用が期待されます。この研究成果は、4月9日(現地時間)に国際学術誌Communications Biologyに掲載される予定です。

ポイント

  • 微細藻類には光合成によって二酸化炭素を固定して油脂を生産する高い能力を有しているものがおり、バイオ燃料生産者として期待されている。
  • 昼夜のある明暗周期条件では、二酸化炭素に由来する炭素リソースの多くが炭水化物(デンプン)として蓄積され、油脂が生産されにくいことが課題となっていた。
  • イオンビ―ム育種技術を用いて、明暗周期条件でも油脂を多く生産する微細藻類を見出した。
  • この微細藻類は、デンプン枝切り酵素遺伝子が破壊されており、炭水化物が分解されやすいフィトグリコーゲンとして生成され、炭素リソースが炭水化物(フィトグリコーゲン)から油脂へと再分配される仕組みであることを解明した。

研究の背景

持続可能な社会の実現に向けて、再生可能資源であるバイオ燃料が注目されています。光合成生物である微細藻類には、二酸化炭素から油脂を生産する高い能力を有しているものがおり、バイオ燃料の生産者として期待されています。神戸大学の加藤悠一特命助教、蓮沼誠久教授らの研究グループは、微細藻類を屋外で培養する際の課題として、昼夜のある明暗周期条件では炭素リソースの多くが油脂ではなく炭水化物(デンプン)の生産へと分配されることを見出していました。

研究の内容

本研究において神戸大学の加藤悠一特命助教、蓮沼誠久教授らの研究グループは、量子科学技術研究開発機構(以下、「量研」)の佐藤勝也上席研究員らと協力し、量研高崎量子応用研究所のイオンビ―ムを照射することにより突然変異を誘発させ、明暗周期条件でも油脂を多く生産する緑藻変異株Chlamydomonas sp. KOR1※1を独自に育種しました。KOR1は、デンプン枝切り酵素※2遺伝子ISA1の破壊株であり、生成する炭水化物がデンプンからフィトグリコーゲン※3に変化していることがわかりました(図1)。

油脂生産性緑藻Chlamydomonas sp.の電子顕微鏡写真

図1. 油脂生産性緑藻Chlamydomonas sp.の電子顕微鏡写真

通常、緑藻細胞内の炭水化物(デンプン)は明期において合成されて増加し、暗期において分解されて減少しますが、完全には分解されずに多くが蓄積します。一方、KOR1が合成する炭水化物(フィトグリコーゲン)は暗期において完全に分解されていました。網羅的代謝解析※4により、KOR1ではデンプン合成経路と油脂合成経路の中間代謝物(フルクトース6-リン酸、グルコース6-リン酸、アセチルCoA、グリセロール3-リン酸など)が全体として増加していることが見出されました。このことから、ISA1遺伝子の破壊による油脂生産向上の代謝メカニズムとして、炭水化物(フィトグリコーゲン)が速やかに分解され、炭素リソースが中間代謝物を介して油脂生産へと再分配されることが明らかになりました(図2)。

デンプン枝切り酵素遺伝子が破壊された微細藻類における油脂生産モデル

図2. デンプン枝切り酵素遺伝子が破壊された微細藻類における油脂生産モデル

今後の展開

微細藻類を用いたバイオ燃料生産では、太陽光を用いて屋外で微細藻類を培養することが必要であり、明暗周期条件における油脂生産の低下は避けられない課題でした。本研究で開発された「デンプン枝切り酵素遺伝子の破壊による炭素リソースの再分配」技術は、この課題に対する回答の一つであり、微細藻類を用いたバイオ燃料生産の実用化に貢献することが期待されます。

用語解説

※1 Chlamydomonas sp. KOR1:台湾の汽水域から単離された微細緑藻Chlamydomonas sp. JSC4を親株としてイオンビーム育種技術※5により育種された変異株。淡水・海水両方での培養が可能。炭水化物を分解して油脂に変換する機構により高増殖性と高油脂蓄積を両立し、高い油脂生産能を有する。

※2 デンプン枝切り酵素:デンプンの分岐構造を切断するタンパク質。デンプンの分解だけでなく合成においても適切な構造を形成する上で機能する。

※3 フィトグリコーゲン:デンプンと比べて枝分かれの多い構造をしている。水溶性が高いことから、細胞内の酵素が作用しやすく、分解されやすい。

※4 網羅的代謝解析:キャピラリー電気-泳動飛行時間型質量分析(CE-TOFMS)装置などを用いて、試料中のイオン性低分子化合物を網羅的に分析する技術。

※5 イオンビーム育種技術:加速器で光の速度の数十%まで加速させた炭素など様々な原子のイオン粒子を植物の種子や葉、微生物の細胞に当てて、効率良くDNAに変異を引き起こすことで有用な形質の品種を育成する方法。

謝辞

本研究は、革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「セレンディピティの計画的創出による新価値創造」における研究開発課題「動的代謝解析による海洋性緑藻の油脂生合成発動メカニズムの解明と油脂高生産技術開発への応用」、研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)「微細藻類からのカロテノイド色素の生産技術開発」の支援を受けて実施されました。

論文情報

・タイトル

“Enhancing carbohydrate repartitioning into lipid and carotenoid by disruption of microalgae starch debranching enzyme”(デンプン枝切り酵素の破壊は微細藻類が蓄積する炭水化物の油脂・カロテノイドへの再分配を促進する)

DOI:10.1038/s42003-021-01976-8

・著者

Yuichi Kato, Tomoki Oyama, Kentaro Inokuma, Christopher J. Vavricka, Mami Matsuda, Ryota Hidese, Katsuya Satoh, Yutaka Oono, Jo-Shu Chang, Tomohisa Hasunuma*, and Akihiko Kondo

* Corresponding author

・掲載誌

Communications Biology

0503燃料及び潤滑油
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