(NIST Researchers Boost Microwave Signal Stability a Hundredfold)
2020/5/21 アメリカ合衆国・国立標準技術研究所(NIST)
・ NIST が、光格子時計、光検出器および光周波数コムのセットを利用することで、マイクロ波の安定性を 100 倍向上させることに成功。
・ より正確な時刻情報の伝達、より効果的なナビゲーションや高信頼通信、レーダー・天文分野での高解像度撮像を可能にする、優れたエレクトロニクス開発への一歩となる。特定の時間周期におけるマイクロ波の一貫性の向上は、デバイスやシステムの稼働の信頼性の確保に貢献する。
・ 本研究の結果は、電子機器の較正に使用される光波~マイクロ波の周波数で稼働する、最先端の原子時計(研究室用)の卓越した安定性をさらに向上させるもの。電子システムでは光信号を直接カウントできないため、同技術で光格子時計の信号の安定性をマイクロ波の領域に間接的に移行した。
・ 2 台のイッテルビウム光格子時計に高周波数の光パルスを発生させ、ギアとして働く光周波数コムで低周波数のマイクロ波信号に正確に変換。光検出器が光パルスを電流に変換し、光格子時計の発振に正確に追随する 10GHz のマイクロ波信号を僅か 1018分の 1 の誤差で放出。この性能水準は 2 台の光格子時計に匹敵し、現在最高レベルのマイクロ波源に比べ安定性が 100 倍超優れる。
・ 今回の成果は、光格子時計の安定性をマイクロ波に変換する高速光検出器に加え、信号増幅のノウハウと相まったマイクロ波の直接的な高精度トラッキングによるもの。波形が互いに異なる光波をマイクロ波に変換するために位相を追随し、ズレのない同一の波形を確保。実験では、1 サイクルの百万分の 1 の解像度で位相変化を追随した。マイクロ波の安定性の向上には、倍増だけでも数年から数十年を要するため、今回の 100 倍向上の成果は想像の域を超えるものと考える。
・ 光周波数コムや検出器等の NIST のシステムのコンポーネントは実際のアプリケーションが可能だが、イッテルビウム光格子時計は厳密な管理下の研究室内の大型テーブルサイズ。モバイルプラットフォームへの転換を試みる。
・ 高安定の電子信号は、水晶発振駆動の電子デバイス等の電子時計の較正をはじめ、様々なアプリケーションを支える。また、セシウム原子が吸収するマイクロ波をベースとした現在の 1 秒の再定義においても重要。
・ さらに、ワイヤレス通信の信頼性の向上、現在はマイクロ波ノイズで制限されている(特に低速移動する物体の)レーダー感度の大幅な改善、ナビゲーションや基礎的な物理研究での利用が可能となる。
・ 本研究は、米国防高等研究計画局(DARPA)が一部支援した。
URL: https://www.nist.gov/news-events/news/2020/05/nist-researchers-boost-microwavesignal-stability-hundredfold
<NEDO海外技術情報より>
(関連情報)
Science 掲載論文(アブストラクトのみ:全文は有料)
Coherent optical clock down-conversion for microwave frequencies with 10−18 instability
URL: https://science.sciencemag.org/content/368/6493/889
Abstract
Optical atomic clocks are poised to redefine the Système International (SI) second, thanks to stability and accuracy more than 100 times better than the current microwave atomic clock standard. However, the best optical clocks have not seen their performance transferred to the electronic domain, where radar, navigation, communications, and fundamental research rely on less stable microwave sources. By comparing two independent optical-to-electronic signal generators, we demonstrate a 10-gigahertz microwave signal with phase that exactly tracks that of the optical clock phase from which it is derived, yielding an absolute fractional frequency instability of 1 × 10−18 in the electronic domain. Such faithful reproduction of the optical clock phase expands the opportunities for optical clocks both technologically and scientifically for time dissemination, navigation, and long- baseline interferometric imaging.