沖縄島の成り立ちには南北で大きな違いがあることを発見

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南西諸島、沖縄島周辺海域の20万分の1海洋地質図幅を整備

2018/12/06 産業技術総合研究所地質調査総合センター

ポイント

  • 沖縄島を囲む周辺海域の海洋地質図(表層堆積図・海底地質図・重磁力異常図)を整備
  • 沖縄島の並びの屈曲が沖縄島の地質の形成に影響を与えたことを発見
  • 水溶性天然ガスを産する沖縄島内の地層が、島の南部海域にも連続的に厚く分布

概要

国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)地質調査総合センター 地質情報研究部門【研究部門長 田中 裕一郎】 荒井 晃作 副研究部門長らは、南西諸島の沖縄島(沖縄本島)周辺海域での詳細な地質調査により、160万年以前は、沖縄島の並びが直線的ではなく屈曲していたため、沖縄島の地質の成り立ちが南北で大きく異なることを明らかにした。

島尻層群は沖縄島に分布し、水溶性天然ガスが賦存すると期待されているが、今回、島尻層群に当たる地層が南部海域に連続して分布し、1,500 m以上の厚さであることが判明した。また、この厚い地層が約600万年前にフィリピン海プレートの沈み込みと沖縄トラフの活動によって形成された凹型地形の前弧海盆内に堆積し、沖縄島南部に顕著に発達したと考えられることが分かった。沖縄島の南部海域にも島尻層群と同様に水溶性天然ガスが賦存する可能性がある。

これら海洋地質調査の結果は20万分の1海洋地質図幅「沖縄島南部周辺海域」(著者:荒井 晃作、井上 卓彦、佐藤 智之、小田 啓邦、板木 拓也)としてまとめ、12月10日から委託販売を開始する(https://www.gsj.jp/Map/JP/purchase-guid.html)。沖縄島周辺の海底の地質情報を整備した同図幅は、資源のみならず防災や海洋利用の基礎となる重要な資料として利活用されることが期待される。

沖縄島の成り立ちには南北で大きな違いがあることを発見
沖縄島周辺海域の海洋地質図(下が今回刊行する「沖縄島南部周辺海域」の海洋地質図)

 

研究の社会的背景

周囲を海で囲まれた島国の日本にとって、海域の地質情報は、広大な排他的経済水域の管理・保全や海洋資源の開発・利用、海底火山や津波などの地質災害リスクの評価のため必要不可欠な基礎情報である。

南西諸島はフィリピン海プレートの沈み込みに伴って形成された島弧(琉球弧)の一部で、琉球弧が陸上に露出した部分が南西諸島の島々や沖縄島である。また、琉球弧は西側の火山活動を伴い拡大を続ける沖縄トラフと、東側のフィリピン海プレートが沈み込む琉球海溝という二つの大構造に挟まれている。そのため、この地域は陸上で確認される天然ガスのほか、海域では熱水鉱床などの資源に富む一方、プレートの沈み込みによって発生する地震・津波や、海底火山による噴火といった地質災害リスクが高い地域でもある。このような南西諸島の地質の状況を把握するには、現在の地質構造などの情報を収集し、その成り立ちを解明することが重要である。しかし、南西諸島周辺では調査が十分に進んでおらず、資源と防災、さらに排他的経済水域の管理・保全の観点から地質情報の整備が急がれていた。

研究の経緯

産総研 地質調査総合センターは国の知的基盤整備計画の一環として、日本周辺の海洋地質調査を進めており、平成18年度までに日本主要四島(本州・北海道・九州・四国)周辺の海洋地質図の整備を完了した。

沖縄島を含む南西諸島は、その成り立ちが未だ解明されておらず、特に資源と防災の観点から地域の地質の把握が重要とされている。そのため、平成20 年度から沖縄島を含む南西諸島の20万分の1海洋地質図幅の作成に取り組み、平成27年に「沖縄島北部周辺海域海洋地質図」を刊行した。その後、沖縄島を取り囲む海洋地質図の整備を完了するため、沖縄島南部周辺海域の調査を進めてきた(図1)。

図1

図1 沖縄島周辺海域の海洋地質図の位置図 実線赤枠が今回整備に取り組んだ海洋地質図の範囲である。破線枠は南西諸島で整備予定範囲を示す(既に完成したものも含む)。

研究の内容

南西諸島のような地域は、陸上の面積が小さいため、陸上の地質調査では限られた情報しか得られない。しかし、海洋調査では、調査船を使って島周辺の広大な地域をカバーできる。特に反射法音波探査などの音波を使った調査は海底下深部の地層までを鮮明に読み取ることができ、周辺海域の詳細な地質構造を把握できると同時にその成り立ちを明らかにできる(図2)。今回、沖縄島周辺海域の海底地質図整備のために、調査船を使った海洋調査を行い、岩石・地質の種類やその分布と地質層序を把握し、採取した試料に含まれる微化石の分析により地層の年代を決定した(図3)。

まず、年代順に沖縄島周辺海域の地層を4つのグループに分類した。4つの地層グループのうち、図3のオレンジ色で示したうるま沖グループは1,500 mを超える厚い堆積層が沖縄島の南部海域に大規模に発達していることを発見した(図4)。うるま沖グループは沖縄島の北部海域にも見られるが、南部海域と大きく異なり、陸棚縁の海底下には堆積していない(図3)。さらに微化石鑑定による年代解析をしたところ、うるま沖グループは沖縄島南部陸域に分布する島尻層群に相当していた(図3)。同様に、他の3つのグループと陸上の地質との関連も明らかにした。

島尻層群は約500~600万年前に形成を開始した泥岩を主体とした地層であり、約160万年前に堆積が始まった琉球石灰岩が主体の琉球層群という地層に覆われている。うるま沖グループとその上の南城沖グループが島尻層群と琉球層群に相当していることから、うるま沖グループは、約500~600万年前から約160万年前までに形成されたと考えられる。

沖縄島周辺海域での南北の地層の厚さの違いは、琉球弧全体を構造的に変形させるフィリピン海プレートの沈み込みや沖縄トラフの活動によって、前弧海盆が南部に発達したことによると考えられる。うるま沖グループが堆積したと考えられる期間中の沖縄島周辺の島弧の位置は、沖縄島の北部では現在の位置と同じだが、南部では現在の位置とは異なり、屈曲していたと推測される(図4)。これは、沖縄島の北部ではその期間中も現在と同じく海底の斜面上に「薄く堆積する環境」であったことを示し、沖縄島南部はその期間中、「厚く堆積する環境」にあったことを示す(図5A)。その当時、沖縄島の南部には厚い地層が発達し、その後、沖縄島の南部の位置が沖縄島の北部と同じ方向になるように移動したため、斜面に薄く堆積する環境に置かれたと考えられる(図5B)。

沖縄島の南部や宮古島などの陸上に分布している島尻層群には水溶性天然ガスが存在することが知られている。この島尻層群に相当するうるま沖グループが沖縄島の南部海域に広く分布している、という今回の発見は、エネルギー資源の観点からも重要である。

図2

図2 反射法音波探査によって得られた海底下の地層の構造

 

図3

図3 沖縄島周辺海域の模式断面図(北部と南部の堆積層の比較) いずれの図も左が北西の沖縄島側、右が南東の海溝軸側を示す。

 

図4

図4 約500~600万年前から約160万年前までの間の堆積盆の位置 当時は島弧の軸(黒の破線)に沿って島が並んでおり、今の沖縄島の南部は海中にあったと考えられる。

 

図5

図5 うるま沖グループの形成過程の模式図図4 約500~600万年前から約160万年前までの間の堆積盆の位置 当時は島弧の軸(黒の破線)に沿って島が並んでおり、今の沖縄島の南部は海中にあったと考えられる。

今後の予定

今後は、現在整備を進めている南西諸島周辺海域の調査を実施し、今回整備した沖縄島南部周辺海域の海洋地質図幅と合わせて、沖縄トラフと島弧のそれぞれの発達過程についてより詳細に解明していくとともに、南西諸島の地質構造の総合的な理解を進めていく。

用語の説明

◆前弧海盆
プレート沈み込み境界の上盤側のプレート上の斜面域に形成される凹地状の地形で、島弧の前縁部に形成される。堆積物がたまる場所を形成する。
◆島弧、琉球弧
島弧とは海溝の陸側に存在する弧状の島の並びのこと。琉球弧は、九州から台湾に弧状に続く島の列が約1,200 km以上にわたって連続する島弧のこと。
◆反射法音波探査
海洋の地質調査の最も基本的な調査方法の一つで、反射法地震波探査とも呼ばれる。調査船から圧縮空気を開放し人工的に音波を発振し、海底面やその下の地層から反射してきた音波をハイドロフォン(水中マイク)で受振する。海底から受振した音波データを集積して、海底下の地質構造を解析する。
◆地質層序
地層の重なりを地質や年代順に区分した際の順序のこと。地層は下から順にたまっていくが、年代順に地層を分類して、年代区分を行っていく。ある地域の岩石の性質、厚さ、それぞれの重なり方、形成された年代やその環境を解明する。微化石などを使って同じ年代の地層が対比できれば、地域を広げて解析ができる。
◆陸棚縁
島の周辺には比較的平らな浅い海が広がるが、それより海側では急な斜面に変わる。この地形の平らな海の縁辺を陸棚縁と呼ぶ。一般的には外縁の水深は120~160 mくらいで地域ごとにある程度一定である。これは最終氷期の低海水準の際に波浪により平坦化されたものと考えられる。
1703地質
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