2024-11-21 国立研究開発法人物質・材料研究機構
NIMSは、レーザー積層造形(金属3Dプリンター)で作製した耐熱鋼のクリープ試験を最長1万時間実施し、積層造形法を用いることで、従来製法材に比べてクリープ寿命を10倍以上延ばせることを明らかにしました。
概要
- NIMSは、レーザー積層造形(金属3Dプリンター)で作製した耐熱鋼のクリープ試験を最長1万時間実施し、積層造形法を用いることで、従来製法材に比べてクリープ寿命を10倍以上延ばせることを明らかにしました。
- レーザー積層造形は、金属粉末を平らに敷き詰め、その上にレーザーを照射して局所的に溶融・結合させた層を積み重ねることで、任意の形状の部材を作製する技術です。この技術により、従来の加工方法では実現が難しかった複雑な形状の部材が製造可能となり、さまざまな分野で活用が進んでいます。しかし、高温・高圧環境で長時間使用される耐熱材料の安全性を確保するために必要なクリープデータは、これまで十分に取得されていませんでした。
- 今回、NIMSは火力発電プラントなどで広く使用されているフェライト耐熱鋼(改良9Cr-1Mo鋼)の試験片をレーザー積層造形で作製し、650 °Cで最長1万時間(約1年2ヶ月)のクリープ試験を実施しました。その結果、積層造形材が従来製法材の10倍以上のクリープ寿命を有することを確認しました。図に示すように、650 °C -100 MPa条件下での破断時間は、従来材が400~800時間であるのに対し、レーザー積層造形材は10,000時間を超えても試験が継続されています。
- レーザー積層造形材は、従来製法材(焼戻しマルテンサイト組織)とは異なり、レーザー積層造形特有の毎秒約100万 °Cに達すると見積もられている超急冷凝固により凍結された高温相のδフェライトを母相とするミクロ組織を形成していました。この特異な組織構造が、クリープ寿命向上の主な要因と考えられます。
- 現在、発電プラントの設計基準で求められる10万時間クリープ破断強度の評価を目指し、1万時間以上の長時間クリープ試験を継続しています。今後は、他の耐熱材料の積層造形材についても長時間クリープ試験を実施する予定です。これにより、優れた特性を実現する積層造形技術と長時間クリープ試験技術を活用し、信頼性データが不足している積層造形材の普及と規格化に貢献していきます。
- 本研究は、NIMS構造材料研究センターの畠山 友孝 研究員、澤田 浩太 グループリーダー、草野 正大 主任研究員、渡邊 誠 副センター長を中心とする研究チームによって実施されました。本研究の一部は、中部電力原子力安全技術研究所の公募研究および日本ボイラ協会のボイラー・圧力容器等研究助成の支援を受けて実施されました。
- 本研究成果は、2024年9月18日にAdditive Manufacturing誌にオンライン掲載されました。
プレスリリースの図: レーザー積層造形材と従来材の 応力とクリープ破断時間の関係の比較
掲載論文
題目 : Significant creep-strength improvement in modified 9Cr-1Mo steel via microstructural control through laser powder bed fusion
著者 : Tomotaka Hatakeyama, Kota Sawada, Masahiro Kusano, Makoto Watanabe
雑誌 : Additive Manufacturing
掲載日時 : 2024年9月18日
DOI : 10.1016/j.addma.2024.104445
関連ファイル・リンク
お問い合わせ先
(研究内容に関すること)
NIMS 構造材料研究センター
クリープ特性グループ
研究員
畠山 友孝 (はたけやま ともたか)
(報道・広報に関すること)
NIMS 国際・広報部門 広報室