2024-03-07 物質・材料研究機構,科学技術振興機構
NIMSは、熱電材料と磁性材料を積層したシンプルな構造を用いて、熱流と直交方向に電界を生む「横型」熱電効果を飛躍的に増大できることを世界で初めて実証しました。
概要
- NIMSは、熱電材料と磁性材料を積層したシンプルな構造を用いて、熱流と直交方向に電界を生む「横型」熱電効果を飛躍的に増大できることを世界で初めて実証しました。本成果は、横型熱電効果を利用した新規な環境発電技術や熱流センサといったデバイス実現に貢献するものです。
- 廃熱などを活用し電気エネルギーを得る熱電変換技術として、ゼーベック効果を用いた研究が盛んに行われています。しかし、ゼーベック効果は、熱流と電流が平行した方向に現れる「縦型」熱電効果であり、複雑な素子構造とそれに起因した耐久性やコスト面の問題が指摘されています。一方、磁性材料に特有の熱電現象である異常ネルンスト効果は、熱流と電流が直交方向に現れる「横型」熱電効果であるため、素子構造がシンプルになり、新規な環境発電技術や熱流センサとしての活用が期待されています。しかし、異常ネルンスト効果で生じる室温での熱電変換性能は1 Kの温度差当たり10 μVに満たず、変換効率が低いという大きな問題があります。
- 今回、研究チームは、熱電材料と磁性材料を積層し電気的に接触させた極めて単純な構造において現れる「ゼーベック駆動横型磁気熱電効果」により、異常ネルンスト効果をはるかに超える横型の熱電能を得られることを世界で初めて実験的に実証しました。理論モデルにより横熱電能を増幅する熱電材料と磁性材料の膜厚比率を予測し、大きなゼーベック効果を示すシリコン (Si) 上に、膜厚を制御した磁性材料鉄ガリウム (Fe-Ga) 薄膜を積層することで、最大で15.2 μV /Kの出力を観測しました。これはFe-Ga単体の異常ネルンスト効果 (2.4 μV /K) のおよそ6倍もの性能向上に相当します。
- 本成果は、熱電材料と磁性材料を接触させただけの極めて単純な二層構造で、横型熱電効果を増大できることを実証したものであり、熱電発電技術などの実用デバイスへの汎用性の高さが大きな特徴です。今後は、社会の省エネルギー化に資する熱電発電デバイス応用に向け、実用上求められる体積の大きなバルク材料を含めて研究を展開させていきます。
- 本研究は、NIMS 若手国際研究センターの周偉男ICYSリサーチフェロー、磁性・スピントロニクス材料研究センター磁気機能デバイスグループの桜庭裕弥グループリーダー、スピンエネルギーグループの内田健一上席グループリーダー、ナノ組織解析グループの佐々木泰祐(別ウィンドウで開きます)グループリーダーによって、JST戦略的創造研究推進事業ERATO「内田磁性熱動体プロジェクト」 (研究総括 : 内田健一、課題番号 : JPMJER2201) の一環として行われました。
- 本研究成果は、2024年3月6日付で学術誌「Advanced Science」誌にオンライン掲載されました。
掲載論文
題目 : Direct-contact Seebeck-driven transverse magneto-thermoelectric generation in magnetic/thermoelectric bilayers
著者 : Weinan Zhou, Taisuke Sasaki, Ken-ichi Uchida, Yuya Sakuraba
雑誌 : Advanced Science
掲載日時 : 2024年3月6日
DOI : 10.1002/advs.202308543