2023-11-30 物質・材料研究機構,科学技術振興機構
1.NIMSは、所望の特性を持つ材料をAIと人との連携により短期間で発見する手法を開発しました。この手法は、水の電解装置に必須とされてきた白金族元素を用いない新規電極材料の発見を導き、次世代エネルギー“エコな水素”製造の低コスト化と大規模導入を加速すると期待されます。
2.カーボンニュートラル実現に向け、二酸化炭素を出さないエコな水素を製造できる水電解装置の大規模導入が求められています。しかし、現在の水電解装置の特性は高価で希少な白金族元素型の電極触媒材料に依存しています。そのため、当該材料の汎用元素化による水素製造が必須となっています。水電解による水素発生には、酸素発生反応=Oxygen evolution reaction(OER)が伴いますが、OERは反応速度が遅いという問題があり、これを速めるため電極触媒材料には高価で希少な白金族元素が必須と考えられていました。そこで、OER電極触媒の低コスト化・大規模化対応に際し、白金族元素を用いない多元系材料が注目を集めています。しかし、元素の組合せや化学組成は無限にあり、最適な材料組成を発見するためには、膨大なコスト、時間、人的資源が必要となっていました。
3.今回、NIMS研究チームはデータ数によって予測する手法を変化させて進化することで、所望の特性を示す材料を正確に予測するAIを開発しました。このAIと人が連携することで、人のみで全候補材料を網羅的に探索すると6年近くかかる3000個程度の候補から、たった1ヵ月でOER電極触媒材料に適した新規材料を発見しました。発見された電極触媒材料は、Mn、Fe、Ni、Zn、Agという比較的安価かつ豊富な元素で合成できます。そして当該材料は、条件によってはこれまでのOER電極触媒材料の中で最もOER活性が高いルテニウム(Ru)酸化物を超える電気化学特性を持っていました。例えば、今回の新規材料の中で最も地殻存在量が少ないAgにしても、Ruの100倍近くも多く存在しており、水電解装置の大量生産を実現する電極触媒材料であると考えています。
4.本研究は、人のみでは膨大な時間がかかるより高特性な材料の探索と発見を、短時間のうちに達成できたという点で、AIが人の能力を拡張したと言えます。今後、水電解向け電極材料開発を筆頭に、さまざまな電気化学デバイスの高効率化を実現する新材料開発を、本研究の成果(AIと人との連携)で加速し、カーボンニュートラル実現のための実用技術開発につなげます。
5.本研究は、NIMS エネルギー・環境材料研究センター 界面電気化学グループの坂牛 健 主幹研究員、NIMS マテリアル基盤研究センター データ駆動型アルゴリズムチームの田村 亮 チームリーダーらによって行われました。
6.本研究成果は、米国化学会誌「ACS Central Science」において2023年11月30日(アメリカ東部時間)にオンライン速報版で掲載されます。
本研究は、科学技術振興機構(JST)における未来社会創造事業「地球規模課題である低炭素社会の実現」領域「実験自動化技術とデータ科学の連携による海水電解材料のハイスループット探索」(JPMJMI21EA)の一環として行われました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(528KB)
<論文タイトル>
- “Human-Machine Collaboration for Accelerated Discovery of Promising Oxygen Evolution Electrocatalysts with On-Demand Elements”
- DOI:10.1021/acscentsci.3c01009
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
坂牛 健(サカウシ ケン)
NIMS エネルギー・環境材料研究センター 界面電気化学グループ 主幹研究員
田村 亮(タムラ リョウ)
NIMS マテリアル基盤研究センター データ駆動型アルゴリズムチーム チームリーダー
<JST事業に関すること>
武内 里香(タケウチ リカ)
科学技術振興機構 未来創造研究開発推進部
<報道担当>
NIMS 経営企画部門 広報室
科学技術振興機構 広報課