2023-04-27 東京工業大学,科学技術振興機構
ポイント
- 陽イオンを包接したトリジマイト型構造をとるBaAl2O4の酸素の一部をH−に置き換えることで、結晶構造中の空間に窒素の活性化に重要な電子を安定化できる新材料を開発
- 3次元的に連結したAlO4四面体骨格の隙間に電子が保護され、大気にさらしても安定
- この新材料をコバルト触媒と組み合わせることで、ルテニウムなどの貴金属触媒なしに低温下でも高いアンモニア合成活性を達成し、水素を生かした脱炭素社会へ貢献
東京工業大学 物質理工学院 材料系のJiang Yihao(ジャン イーハオ) 大学院生(博士後期課程2年)、元素戦略MDX研究センターの北野 政明 教授と細野 秀雄 栄誉教授らの研究グループは、充填トリジマイト型構造を持つアルミン酸バリウム「BaAl2O4」内の酸素の一部をヒドリドイオン(H−)に置き換えるとエレクトライドの
「BaAl2O4-xHy:e‒z」となり、さらにこの新材料をコバルト触媒の担体として用いると、既存のルテニウム触媒よりはるかに高いアンモニア合成活性が実現することを発見した。
水素社会の構築に向けて、再生可能エネルギー由来の水素をアンモニアに変換する「グリーンアンモニア合成」に注目が集まり、そのための触媒開発が世界中で行われるようになった。なかでも環境負荷を低く抑えられる低温でのアンモニア合成については、H− を有する触媒材料が有効に働くことが報告されているが、そうした材料のほとんどには「大気に暴露すると活性が大幅に低下する」という課題があった。
コバルト触媒の活性を高めるこの新材料「BaAl2O4-xHy:e‒z」では、3次元的に連結したAlO4四面体がカゴ状の骨格をつくり、結晶構造の内部の空間にH−や電子が安定した形で取り込まれて保護されるため、大気中での安定性が向上する。そのため従来のH−を含む材料の弱点を克服することができた。また、空間に取り込まれた電子による強力な電子供与性と格子中に取り込まれたH−の効果により、コバルト触媒表面での窒素解離と水素化を大幅に促進できる。その結果、コバルト触媒として世界最高レベルの性能を実現した。
研究成果は4月27日(現地時間)に米国科学誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン速報版に公開される。
本研究成果は、JST 創発的研究支援事業(JPMJFR203A)、科学研究費助成事業(JP22H00272、JP21H00019)、JST 未来社会創造事業(JPMJMI21E9)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務(JPNP21012)、つばめBHB株式会社との共同研究の支援によって実施された。
<論文タイトル>
- “Boosted Activity of Cobalt Catalysts for Ammonia Synthesis with BaAl2O4-xHy Electrides”
- DOI:10.1021/jacs.3c01074
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
北野 政明(キタノ マサアキ)
東京工業大学 国際先駆研究機構 元素戦略MDX研究センター 教授
細野 秀雄(ホソノ ヒデオ)
東京工業大学 国際先駆研究機構 元素戦略MDX研究センター 特命教授/栄誉教授
<JST事業に関すること>
中神 雄一(ナカガミ ユウイチ)
科学技術振興機構 創発的研究推進部
<報道担当>
東京工業大学 総務部 広報課
科学技術振興機構 広報課