2022-03-08 物質・材料研究機構
NIMS、クイーンズランド大学、および国立台湾大学のメンバーからなる国際共同研究チームは、粘土ナノシートの粒径の調整により、粘土膜のガス透過性が制御可能であることを見出しました。
概要
- 国立研究開発法人物質・材料研究機構 (NIMS) 、クイーンズランド大学、および国立台湾大学のメンバーからなる国際共同研究チームは、粘土ナノシートの粒径の調整により、粘土膜のガス透過性が制御可能であることを見出しました。さらにこの膜を青果物表面に均一に塗布することで呼吸量を適量に抑え、酸素欠乏に至るのを回避しつつ腐敗を遅らせることに成功しました。粘土は地球上に遍在し、環境負荷の低い物質ですので、粘土だけで作られる膜を青果物の品質保持に使うことができれば、「ディスポーザブルな膜」として青果物の腐敗やカビを防ぐ方法を流通に組み込み、フードロスを減らしていくことが期待できます。
- 粘土ナノシートは、有機ポリマーに添加することで膜としての特長を向上させる試みがなされてきました。粘土ナノシートは単独でも十分高い成膜性を示しますが、このような粘土膜について、特性が評価された例はあまりありませんでした。
- 今回、本国際共同研究チームは、粘土膜の特性として「ガス透過度」に着目し、粘土ナノシートの粒径が数十nmの場合には、膜の孔を通してガス分子が移動するために、透過度が比較的高いことを確認しました。このタイプのガス透過が利用されている例としては、微細な孔が施されたポリ袋などがあります。これは青果物の保存において、酸素供給量を適切に抑える (酸素供給が少なすぎれば酸素欠乏が起こる) ことで早すぎる熟成を防ぐことができます。このような背景から、小さい粒径の粘土ナノシート膜が青果物の長期保存に役立つのではないかと考えました。
本研究では、粘土ナノシート分散液を青果物 (りんご・バナナ・オレンジ等) 表面に塗布し、均一に成膜しました。比較として、何も成膜を施していないもの、食品用ラップでくるんだものを用意し、数か月間にわたり発生するガスや見た目の変化の違いを観察しました。りんごの例を下図に示しますが、何も施していないものは果肉が軟化し、ラップでくるんだものはカビの発生も見られました。これに対し、粘土膜を施したものでは果肉が崩れたりカビが生えたりといった変化はありませんでした。これは、粘土膜が外部からの酸素供給を抑え、果実の熟成やカビの生育を妨げているためであると考えられます。また、粘土膜と果実表面の密着性が良く、成長ホルモンであるエチレンの放出を効率的に抑制していることも影響していると考えられます。 - 粘土膜による酸素・エチレン供給の抑制だけでなく、青果物の香気成分の放出も抑制されていることから、虫害・獣害を防ぐことができる可能性もあります。今後は、この粘土膜を実際に青果物の流通の中に組み込むことを目指し、塗布のしやすさや膜強度を改善していきます。
- 本研究は、NIMS国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 メソスケール物質化学グループの江口美陽主任研究員を中心とし、クイーンズランド大学、および国立台湾大学のメンバーからなる国際共同研究チームで行われました。また、本研究の一部は、 JST-ERATO山内物質空間テクトニクスプロジェクトの支援の下で行われました。
- 本研究成果は、J. Mater. Chem. A, 2022, 10, 1956-1964にて掲載されました。
プレスリリース中の図 : リンゴの腐敗に及ぼす粘土膜とラップの効果
掲載論文
題目 : Highly adhesive and disposable inorganic barrier films: made from 2D silicate nanosheets and water
著者 : Miharu Eguchi, Muxina Konarova, Nagy L. Torad, Te-An Chang, Dun-Yen Kang, Joe Shapter, Yusuke Yamauchi
雑誌 : J. Mater. Chem. A, 2022, 10, 1956-1964
掲載日時 : 2021年12月2日
DOI : 10.1039/D1TA08837H