2022-02-10 物質・材料研究機構
NIMSは、トレハロース水溶液の低温・高圧下での体積測定を行い、溶媒水の可逆な液体 – 液体転移の直接観測に成功しました。
概要
- 国立研究開発法人物質・材料研究機構 (NIMS) は、トレハロース水溶液の低温・高圧下での体積測定を行い、溶媒水の可逆な液体 – 液体転移の直接観測に成功しました。この結果は、水には低温で異なる2つの液体状態が存在することの実験的証拠であり、水の低温での不思議な性質 (例えば、4℃で密度が極大になる現象など) の解明に繋がることが期待されます。
- 通常、物質を冷却するとその体積は小さくなります。しかし、水を冷やしていくと、約4℃を境にその体積の変化は収縮から膨張に転じます。この水の不思議な振る舞いは400年以上前から知られていましたが、現在でも明確な科学的説明はなされていません。最近の過冷却水やガラス状態の水の研究から、水には低温に密度の異なる2つの液体状態が存在する可能性が指摘され、水の不思議な振る舞いと関係していると考えられています。理論上2つの水は可逆的に不連続な転移をすると考えられています。しかし、低温の水がすぐに結晶化してしまうために実験的にこれを証明することは難しく、これまで直接観測されることはありませんでした。
- 今回、NIMS先端材料解析研究拠点の鈴木芳治主幹研究員は、低濃度トレハロース水溶液ガラスを用いることで、広い温度・圧力領域での低密度状態と高密度状態間の転移の観測を可能にし、低密度と高密度の液体状態の存在の実証とそれらの間の転移の直接観測に成功しました。圧力変化によるトレハロース水溶液ガラスの体積変化からポリアモルフィック転移とガラス転移の関係が求められ、低密度状態と高密度状態のトレハロース水溶液が高粘性の液体として存在する温度・圧力領域が決定されました。その結果、140K以上で観測される可逆なポリアモルフィック転移が液体 – 液体転移であることが明らかになりました。本研究では、低密度の液体が160K付近まで安定に存在することが初めて確認され、低密度状態から高密度状態への液体 – 液体転移が初めて観測されたことになります。
- 低温・高圧下で確認された2つの水の影響は、室温・1気圧の水だけでなく水溶液の物性や構造にも及んでいると考えられます。もし2つの水の制御が可能になれば、水溶液や生体分子などの構造や機能を制御できる可能性があります。今後は、2つの水と物質との関係を明らかにし、低温の水に関係する分野 (例えば、溶液化学、低温生物学、気象学、食品工学、環境学など) への応用を目指します。
- 本研究は、日本学術振興会 科学研究費補助金20K03888の一環として行われました。
- 本研究成果は、米国科学アカデミー紀要(PNAS)誌で2022年1月25日にオンラインで公開されました。
プレスリリース中の図 : 過冷却水の状態図
掲載論文
題目 : Direct observation of reversible liquid-liquid transition in a trehalose aqueous solution.
著者 : Yoshiharu Suzuki
雑誌 : Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS)
掲載日時 : 2022年1月25日
DOI : 10.1073/pnas.2113411119