🔋電池に関するテーマ別技術概要
1. 全固体電池の性能劣化メカニズムの解明
東レリサーチセンターは、硫化物系全固体電池(NCA/Li₆PS₅Cl/グラファイト)における充放電サイクル後の性能低下の原因を多角的な機器分析により解明しました。主な劣化要因として、正極内での活物質と固体電解質の層間剥離、電解質の化学構造変化(PS₄四面体の酸素置換やS–S結合の生成)が挙げられています。これらの変化がリチウムイオンの移動性低下を引き起こし、内部抵抗の増加と容量の減少を招いています。
2. トポロジカル量子電池の理論的構築
理化学研究所の研究チームは、トポロジー特性と量子効果を融合させた「トポロジカル量子電池」を理論的に構築しました。この電池は、従来の量子電池が抱える長距離での高効率エネルギー伝送の難しさや散逸による性能低下といった課題を、トポロジー特性の活用によって克服し、長距離完全充電と散逸免疫を理論的に実現できることを確認しました。


トポロジカル量子電池の理論的構築~量子とトポロジーによる蓄給電理論の新提案~
2025-05-13 理化学研究所理化学研究所(理研)量子コンピュータ研究センターの尚 程 特別研究員らの国際共同研究チームは、トポロジー特性と量子効果を融合させた革新的なエネルギー貯蔵デバイス「トポロジカル量子電池」を理論的に構築しました...
3. TiO₂ナノロッド配列による太陽電池効率の向上
中国科学院の研究チームは、酸化チタン(TiO₂)ナノロッドアレイ(TiO₂-NA)の密度を制御する新技術を開発しました。この技術では、ナノロッドの直径や高さを変えずに密度を調整でき、光捕集や電荷分離、キャリア収集効率を最適化することが可能です。具体的には、前駆体フィルムの加水分解段階を延長することで、アナターゼ型ナノ粒子の形成を促進し、これを種結晶としてルチル型ナノロッドを成長させます。この方法により、ナノロッドの密度を精密に制御しつつ、太陽電池の変換効率を最大10.44%まで向上させることに成功しました。
4. 燃料電池触媒の非白金化
熊本大学の研究チームは、燃料電池の酸素還元反応(ORR)および水素発生反応(HER)において高い耐久性を示す非白金系コバルト触媒の開発に成功しました。この触媒は14員環コバルト錯体を基盤としており、従来の鉄系触媒よりも優れた耐久性を持ちます。原子分解能電子顕微鏡観察や量子化学計算などの解析により、活性点構造がコンパクトで歪みが小さいため、反応中に金属が溶出しにくいことが明らかとなりました。


燃料電池触媒の非白金化へ前進 ~高耐久性コバルト触媒の開発に成功~
2025-04-30 熊本大学熊本大学大学院先端科学研究部の大山順也准教授らの研究チームは、燃料電池の酸素還元反応(ORR)および水素発生反応(HER)において高い耐久性を示す非白金系コバルト触媒の開発に成功しました。この触媒は14員環コバ...
5. リチウム電池による火災リスク低減技術
フラウンホーファー統合回路研究所(Fraunhofer IIS)は、リサイクル施設でのバッテリー火災を防ぐため、センサーを活用した廃棄物選別技術を開発しました。この技術は、電子機器に含まれるリチウムイオン電池を自動的に検出・除去することで、火災リスクを大幅に低減します。研究プロジェクト「DangerSort」では、マルチエネルギーX線画像と深層学習を組み合わせたAIアルゴリズムを用いて、廃棄物中の危険物を高精度に識別します。これにより、リサイクル工程の安全性が向上し、持続可能な資源循環の実現に貢献します。


リチウム電池による火災リスクを下げるセンサー分別技術(Sensor-Based Waste Sorting Reduces Number of Battery Fires in Recycling Plants)
2025-05-05 フラウンホーファー研究機構© Fraunhofer IIS/Paul PulkertAt Fraunhofer IIS, waste streams are screened by a prototype sortin...
6. フレキシブルタンデム太陽電池の性能向上
中国科学院寧波材料技術与工程研究所の研究チームは、フレキシブルなペロブスカイト/CIGSタンデム太陽電池の性能と耐久性を向上させるため、「アンチソルベント播種(antisolvent-seeding)」戦略を開発しました。CIGS層の粗い表面でも高品質なペロブスカイト層を形成できるこの技術により、変換効率24.6%(認証値23.8%)を達成。1.09cm²のセルで3,000回の屈曲後も90%以上の効率を維持し、機械的耐久性と長期安定性を実証しました。


フレキシブルタンデム太陽電池の性能向上戦略を開発(Chinese Scientists Develop Strategy to Improve Flexible Tandem Solar Cell Performance)
2025-04-18 中国科学院(CAS)中国科学院寧波材料技術与工程研究所の研究チームは、フレキシブルなペロブスカイト/CIGSタンデム太陽電池の性能と耐久性を向上させるため、「アンチソルベント播種(antisolvent-seeding...
📈 現在のトレンドと今後の課題
トレンド
- 全固体電池の実用化に向けた研究の加速:安全性とエネルギー密度の向上を目指し、材料開発や製造プロセスの最適化が進められています。
- 量子技術のエネルギー分野への応用:トポロジーと量子力学を融合させた新しい電池概念が提案され、理論的な基盤が構築されています。
- ナノ構造制御によるデバイス性能の向上:ナノロッドの密度や配置を精密に制御することで、太陽電池などのエネルギーデバイスの効率向上が図られています。
- 非白金系触媒の開発:燃料電池のコスト削減と資源依存度の低減を目指し、コバルトなどの非貴金属を用いた高性能触媒の研究が進展しています。
- リチウム電池の安全性向上:リサイクル工程での火災リスクを低減するため、AIとセンサー技術を組み合わせた危険物検出システムの導入が進められています。
- フレキシブル太陽電池の高効率化:軽量で柔軟な太陽電池の性能向上に向けた材料設計や製造プロセスの最適化が注目されています。
今後の課題
- 全固体電池の界面安定性の確保:活物質と固体電解質の界面での反応や剥離を抑制するための材料設計と製造技術の確立が求められます。
- 量子電池の実用化に向けた技術開発:理論的なモデルを実際のデバイスに応用するための実験的検証と技術的課題の解決が必要です。
- ナノ構造の大量生産技術の確立:研究室レベルでの成果を産業応用するためには、ナノ構造の大量かつ均一な製造技術の開発が不可欠です。
- 触媒の長期安定性と大量生産:非白金系触媒の実用化には、長期的な耐久性の確保とスケーラブルな製造プロセスの確立が必要です。
- リサイクル施設への技術導入:新たなセンサー分別技術の導入には、既存のリサイクルインフラとの統合やコスト面での課題が存在します。
- フレキシブル太陽電池の商業化:高効率と耐久性を兼ね備えたフレキシブル太陽電池の商業化には、製造コストの削減と大量生産技術の開発が求められます。
これらの技術は、エネルギー効率の向上や新しいエネルギー貯蔵・変換デバイスの開発に寄与する可能性があります。また、エネルギー効率の向上や新しいエネルギー貯蔵・変換デバイスの開発に寄与する可能性があります。
今後も、材料科学、量子物理学、ナノテクノロジーなどの分野が連携し、持続可能なエネルギー社会の実現に向けた研究開発が進展すること、また、材料科学、ナノテクノロジー、AI技術などの分野が連携し、持続可能なエネルギー社会の実現に向けた研究開発が進展することが期待されます。