2024-12-02 名古屋大学
名古屋大学大学院工学研究科の松山 智至 教授(兼:大阪大学大学院工学研究科招へい教授)、栗本 晋之介 博士前期課程学生(研究当時)、井上 陽登 助教、理化学研究所放射光科学研究センターの矢橋 牧名 グループディレクター、香村 芳樹 チームリーダーらの研究グループは、試料を面内回転させながら撮影した顕微鏡像からボケを分離して試料情報(振幅と位相)を決定できる手法を開発しました。数式ベースのアルゴリズムでは再構成が困難でしたが、AI技術を駆使した手法(物理拘束条件を持つニューラルネットワーク)を新たに考案することで、この問題を解決しました。本手法を用いることで、レンズの作製誤差やアライメント誤差に起因するボケを容易に取り除くことができ、高精細な顕微鏡像の取得が可能となります。また、ボケの原因となる波面収差を定量的に決定できるため、結像光学系の診断にも応用できます。本手法は複雑な光学系を構築できないX線領域でも容易に実施可能です。X線領域ではレンズやミラーの作製が難しくボケの発生が避けられないため、ボケを除去した高精細なX線顕微鏡画像が得られる本手法は非常に有効です。高分解能かつ試料内部を非破壊で観察できるX線顕微鏡は、様々な領域(半導体デバイス検査や電池内部の観察など)で注目されており、本手法によってさらなる空間分解能の向上が可能となりました。
本研究成果は、2024年11月29日19時(日本時間)に英国科学誌『Scientific Reports』に掲載されました。
【ポイント】
・試料を面内回転させながら撮影した顕微鏡像だけを用いて、試料とボケ注1)の情報(振幅と位相)を分離して決定できる手法を開発。
・AI技術を駆使した再構成法(物理拘束条件を持つニューラルネットワーク)を開発することで、実験誤差に対して安定な再構成に成功。
・本手法を用いることでボケを除去した高精細なX線顕微鏡像の再構成に成功。
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【用語説明】
注1)顕微鏡のボケ:
レンズに作製誤差が残存していると波面収差が発生し像がボケる。波面収差は波長の1/4以下に抑える必要があり、X線領域では波長が1Å程となるため、非常に厳しい。
【論文情報】
雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Multi-frame blind deconvolution using X-ray microscope images of an in-plane rotating sample
著者:Shinnosuke Kurimoto、 Takato Inoue(名古屋大学)、 Hitoshi Aoto、 Toshiki Ito Satsuki Ito、 Yoshiki Kohmura(理化学研究所)、 Makina Yabashi(理化学研究所)、 and Satoshi Matsuyama(名古屋大学 兼:大阪大学)
DOI:10.1038/s41598-024-79237-x
URL:https://www.nature.com/articles/s41598-024-79237-x
【研究代表者】
大学院工学研究科 松山 智至 教授