2024-09-20 九州大学
応用力学研究所 磯辺篤彦 教授
ポイント
- 九州大学の国際研究拠点である、応用力学研究所 海洋プラスチック研究センター(タイ王国・バンコク)は、チュラロンコン大学とともに、2022年よりチョンブリ県シーチャン島周辺で海洋マイクロプラスチック(※1)の共同調査を実施してきた。
- このたび、世界で初めて造礁サンゴの骨格にまで侵入した微細マイクロプラスチック片の検出に成功した。
- 骨格にまで入り込んだマイクロプラスチックはサンゴの死後も残り続けるため、そのまま千年規模の長期にわたって蓄積する可能性がある。
概要
シーチャン島の造礁サンゴから検出された微細マイクロプラスチック片
九州大学の国際研究拠点である、応用力学研究所 海洋プラスチック研究センター(タイ王国・バンコク市チュラロンコン大学内:以降は研究センター)は、チュラロンコン大学とともに、2022年よりチョンブリ県シーチャン島周辺で海洋マイクロプラスチックの共同調査を実施してきました。この調査によって、同海域で採取した四種の造礁サンゴの体内から、サイズが数十から数百マイクロメートル程度の微細マイクロプラスチック片(フラグメント)が発見されました。検出した174粒の微細マイクロプラスチックは、全四種のサンゴの表面粘液、組織、骨格全体に、それぞれ38%、25%、そして37%の割合で分布していました。このうち骨格にまで微細マイクロプラスチック片が入り込んでいる事実は、本研究によって世界で初めて見出されたものです。この発見は、これまでサンゴ研究では適用例のない、研究センターで開発した微細マイクロプラスチックの検出技術によってもたらされました。この度のサンゴ骨格から微細フラグメントを検出した本研究の意義は、多様なプラスチックごみが破砕を繰り返したのち、一部はサンゴに蓄積されることを示したことにあります。プラスチックごみは自然環境下に数百年から千年規模で残存するとされています。ひとたび骨格に入った異物はサンゴ体外には出て行かないため、サンゴが死滅した後でも、地質学的な時間規模でマイクロプラスチックがサンゴ内に保存されることが示唆されます。今回の調査対象であるサンゴは世界的に広く分布しているため、今回の発見は、世界のサンゴ内におけるマイクロプラスチックの蓄積量について、新たな見積もりの必要性を与えるものです。
本研究成果はエルゼビア出版のScience of the Total Environment誌にて2024年9月18日にオンライン・リリースされました。
研究者からひとこと
現場海域にアクセスの良い国際研究拠点の設置によって、継続的な調査が可能となりました。今回の研究を、亜熱帯域や熱帯域に広がるサンゴ礁による、海洋プラスチックの蓄積量推定へと発展させたいと思います。
用語解説
(※1) マイクロプラスチック
環境に流出したプラスチックごみが、紫外線による劣化などを経て次第に破砕し、サイズが5mm以下となったもの。
論文情報
掲載誌:Science of the Total Environment, TBD, 2024
タイトル:Possible sink of missing ocean plastic: Accumulation pattern in reef-building corals in the Gulf of Thailand
著者名:Suppakarn JANDANG, María Belén Alfonso, Haruka NAKANO, Nopphawit PHINCHAN, Udomsak DARUMAS, Voranop VIYAKARN, Suchana CHAVANICH, and Atsuhiko ISOBE
DOI:10.1016/j.scitotenv.2024.176210
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お問い合わせ先
応用力学研究所 Suppakarn JANDANG 助教
応用力学研究所 磯辺篤彦 教授