若い超新星残骸の電子温度

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2024-06-27 自然科学研究機構

星が爆発して超新星残骸が形成されると、放出された物質は、秒速数千キロメートルで広がる衝撃波を引き起こします。この衝撃波を理解することで、観測される放射線の起源や、衝撃波によって加速する宇宙線の割合をモデル化することができます。このような非常に密度の低い環境では、電子・イオンプラズマの粒子の衝突はほとんど起こりません。そのため、超新星残骸の大きさより10桁も小さいスケールでの電磁乱流と粒子の複雑な相互作用によって、衝撃波は形成されます。
これらの衝撃波の物理現象は非常に興味深く、数値、観測、実験といった様々な分野からの学際的アプローチの対象となっています。その結果、衝撃波前面での電子集団の断熱的圧縮から単純に予想される温度よりも1000倍も高い電子温度が観測されています。このような高温状態が発生するメカニズムはまだ解明されていません。


図:超新星残骸Cas Aの合成画像。青みがかった発光はショックの存在を示している。上部の挿入図は、流れの方向に垂直な乱流磁場を示す。下図は電子加熱のメカニズムを示している。
© A. Vanthieghem; X-ray:NASA/CXC/SAO; Optical: NASA/ESA/STScI; IR: NASA/ESA/CSA/STScI/Milisavljevic et al., NASA/JPL/CalTech ; Image Processing: NASA/CXC/SAO/J. Schmidt and K. Arcand.


日米欧の研究機関の共同研究の一環として、当研究チームは衝撃波を通過する際の電子とイオンのエネルギー分配を説明する新しい理論モデルを構築しました。イオンは質量が大きいため、電磁乱流の影響をわずかに受けるだけですが、軽い電子は電磁乱流の影響を受けて移動しにくいことが分かります(図参照)。このダイナミクスの違いによって電場が発生し、ジュール加熱型の過程で電子が加熱され、電子はイオン温度の数分の一の温度を獲得するのです。
『Physical Review Letters』誌に掲載されているこの理論モデルの正しさは、最先端の数値シミュレーションによって確かめられています。この数値シミュレーションはプリンストン大学(米国)のSTELLARスーパーコンピューターで数百万時間の計算を必要としました。この理論モデルは、電磁乱流が支配する様々な天体物理学的環境および実験室環境に広く適用可能であり、衝撃波における粒子輸送、加熱、粒子加速に関する研究に有望な展望を開くものです。

論文情報:“Electron heating in high Mach number collisionless shocks”
Published online, 25 June 2024, in the 28 June 2024 issue of Physical Review Letters (Vol. 132, No. 26)
DOI: 10.1103/PhysRevLett.132.265201

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