2024-06-25 愛媛大学
愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センターの大内智博准教授、入舩徹男教授と高輝度光科学研究センターの肥後祐司研究員らの研究チームは、大地震後におきる地殻変動(余効変動)のプロセス解明につながる実験に成功しました。余効変動が進行する地下条件と同じ高温高圧下でのモデル実験によって、カンラン石の遷移クリープ現象を観察することに成功しました。この現象は実験室では短時間でしか出現しないため、高温高圧下での観察はこれまで困難でしたが、SPring-8の強力な次世代X線を用いることでその観察が可能となりました。本研究の結果は、大地震後に数年~数十年間継続する地殻変動は、マントルを構成するカンラン石が遷移クリープ現象を起こすことで説明されることを意味しています。今後、本研究で数式化したカンラン石の遷移クリープ現象に基づくことで、大地震後の地表の地殻変動がより正確にモデル化することが可能になるものと期待されます。
本研究成果は、米国の科学雑誌「Geophysical Research Letters」に掲載されました。
ポイント
・ 大地震後に数年~数十年間継続する地殻変動の際には、マントルの粘性が通常よりも大幅に低いことが一般的である。そのため、時には激しい地殻変動に至る。
・ 大地震後のマントル粘性の異常は、マントル鉱物(カンラン石)の遷移クリープ現象によるものと予想されてきたが、それを実験的に証明することは困難であった。
・ 本研究では、地球の深さ50~100kmの圧力条件を実験室で再現し、カンラン石の遷移クリープ現象をX線その場観察により捉えた。
・ サブ秒オーダーの高時間分解能の観察を可能にするSPring-8の次世代X線が、実験成功の鍵となった。
・ この結果、地震後の地殻変動は、カンラン石の遷移クリープ現象で説明されることが証明された。
【余効変動とは】
上側:太平洋プレートと陸のプレートの境界で断層がすべり、大地震が発生した直後の地下構造のイメージ図。断層すべりによって、それぞれのプレートが伸張しようとする。 下側:大地震発生から数年後の地下構造。高温のために流動性が高いマントルの上昇流が生じ、それによってプレートの隆起が進行する。特に太平洋側ではその隆起が顕著に進行する。図はSun et al. (2014 Nature) に基づく。
論文情報
掲載誌:Geophysical Research Letters
題名:Transient creep in olivine at shallow mantle pressures: Implications for time-dependent rheology in post-seismic deformation
(和訳)マントル浅部におけるカンラン石の遷移クリープ:余効変動における時間依存性の粘性流動の起源
著者:Tomohiro Ohuchi, Yuji Higo, Noriyoshi Tsujino, Yusuke Seto, Sho Kakizawa, Yoshinori Tange, Yamato Miyagawa, Yoshio Kono, Hirokatsu Yumoto, Takahisa Koyama, Hiroshi Yamazaki, Yasunori Senba, Haruhiko Ohashi, Ichiro Inoue, Yujiro Hayashi, Makina Yabashi and Tetsuo Irifune
DOI:10.1029/2024GL108356 (2024).
URL:https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1029/2024GL108356
本件に関する問い合わせ先
愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター
大内 智博