イオン結合を有する海洋生分解性プラスチック素材を開発~海洋プラスチック汚染ゼロの実現に貢献 生分解を促進する樹脂添加剤として利用~

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2023-09-27 新エネルギー・産業技術総合開発機構,日清紡ホールディングス株式会社

NEDOの「海洋生分解性プラスチックの社会実装に向けた技術開発事業」(以下、本事業)で日清紡ホールディングス(株)は、海水中で速やかに無害な成分に変換される生分解性プラスチック素材の開発に取り組んでいます。そして今般、プラスチック素材を構成する分子の骨格部分(主鎖)にイオン結合を導入することで、結合部分が海水中のナトリウムイオンと置き換わり低分子化され、生分解が促進される新たなプラスチック素材(以下、本開発材)を開発しました。

本開発材は他のプラスチックと溶融混練しやすいため、プラスチックの物理的性質を大きく損なわずに生分解を促進する樹脂添加剤として使用できます。また、本開発材は、海域や海水温度などによらず、セルロースを超える高い生分解度を示すとともに、土壌中でも生分解性を有することが確認されており、幅広い環境で生分解するマルチ生分解性が期待されます。

今後、日清紡ホールディングス(株)は、本開発材を樹脂添加剤として早期に製品化することを目指し、プラスチック・素材・成形メーカーとのマッチングと量産体制の構築を進めます。本開発材を早期に製品化することで、第2回政府間交渉委員会(INC)で日本が世界に向けて提案した、2040年までに海洋プラスチックによる追加的な汚染をゼロにすることへ貢献します。

イオン結合を有する海洋生分解性プラスチック素材を開発~海洋プラスチック汚染ゼロの実現に貢献 生分解を促進する樹脂添加剤として利用~

図1 イオン結合を有する海洋生分解性プラスチック素材の生分解機構のイメージ

1.背景

プラスチックは、日常生活の利便性を向上する素材として幅広く活用されている一方で、生産量の増大に伴い、プラスチックごみによる海洋汚染が社会問題となっています。この問題を解決するためには、海水中で速やかに無害な成分に変換される海洋生分解性プラスチックを開発することが必要です。

このような背景の下、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、2020年度から本事業※1において「海洋生分解性プラスチックに関する新技術・新素材の開発」を実施しています。その一環として、海水中に豊富に存在するナトリウムイオンによる生分解※2のトリガーに注目し、日清紡ホールディングス株式会社(以下、日清紡ホールディングス)と共同で、イオン結合を有する海洋生分解性プラスチック素材の開発に取り組んでいます。中でも、プラスチック素材を構成する分子にイオン結合を導入したものは、海水中でイオン交換が生じ、低分子量化することで生分解の開始点を増やし、生分解の促進を図れる新たな技術として注目されています。

日清紡ホールディングスは2021年に、海洋汚染の原因の一つであるプラスチックビーズの代替素材として、バイオマスであるアルギン酸を利用した「フラビカファイン®SILKYタイプ※3」を開発し、化粧品や皮膚洗浄剤などのパーソナルケア製品を主な用途として製品化を進めています。今回、新たに樹脂添加剤※4への用途拡大を目指し、他のプラスチックと溶融混錬※5が可能なイオン結合を有する海洋生分解性プラスチックの開発を進めてきました。

2.今回の成果
(1)生分解を促進する樹脂添加剤としての使用に成功

本開発材は、樹脂添加剤に適するよう、独自の技術で主鎖にイオン結合を取り込み、構造と組成を改良しました。これにより、他のプラスチックと溶融混練しやすくなり、プラスチックの物理的性質を大きく損なわずに生分解を促進する樹脂添加剤としての使用に成功しました(図2)。

本開発材からなる生分解を促進する樹脂添加剤である白い粉末の写真
図2 本開発材からなる生分解を促進する樹脂添加剤

(2)本開発材とセルロースの生分解性試験でマルチ生分解性を確認
  • 本開発材とセルロースの生分解性試験を実施し、下記の通り本開発材のマルチ生分解性を確認しました(図3)。これらの成果より、本開発材は幅広い環境用途での活用が期待できます。
  • 三つの地点(東京湾近郊)で採取した海水を用いた生分解性試験※6を実施したところ、本開発材はどの地点の海水でもセルロースを上回る生分解度を示しました。また、セルロースの生分解度は海域によって大きく異なる結果でしたが、本開発材は海域による数値の差がほとんどありませんでした。
  • 千葉港で採取した海水を用いて異なる海水温度(10℃と30℃)での生分解性試験を実施したところ、本開発材はいずれもセルロースを超える生分解度を示しました。一方で、セルロースの生分解度は海水温度によって大きく異なる結果となりました。
  • 土壌中での生分解性試験※7を実施し、30日間でセルロースと同等の生分解度を示しました。
  • 活性汚泥※8中での生分解性試験※9を実施し、28日間でセルロースと同等の生分解度を示しました。

海水中における本開発材とセルロースの生分解度の比較をしたグラフ
図3 海水中における本開発材とセルロースの生分解度の比較 (a)海域 (b)海水温度

(3)本開発材の高い海水崩壊度を観測

本開発材を用いた樹脂添加剤を既存の生分解性プラスチックに添加した複合素材について海水中での崩壊度試験を実施しました。千葉港で採取した海水を入れた水槽にフィルム試験片(2cm×2cm×200μm)を浸漬(しんせき)し、90日後の外観を観察したところ、本開発材を含むフィルムは茶色く変色し、一部が崩壊している様子が確認できました(図4)。

これにより、本開発材を樹脂添加剤として用いることで、本開発材だけでなく複合素材の主な材料である既存の生分解性プラスチックの崩壊を促進することも確認できました(図5)。

左は浸漬前の写真で、右側は90日間浸漬後の写真
(左)浸漬前(右)90日間浸漬後
図4 本開発材を添加した複合素材の海水崩壊度試験の様子

本開発材を樹脂添加剤として使用した複合素材の生分解促進のイメージ画像
図5 本開発材を樹脂添加剤として使用した複合素材の生分解促進のイメージ

3.今後の予定

NEDOと日清紡ホールディングスは、10月4日から6日まで幕張メッセで開催される第3回サステナブルマテリアル展に本開発材を出展します。展示会出展を通してプラスチック・素材・成形メーカーとのマッチングを図り、本開発材を樹脂添加剤やプラスチックビーズの代替素材として早期の製品化を目指します。

早期の製品化により、イオン結合を有する海洋生分解性プラスチック素材が普及することでプラスチックゴミによる海洋汚染を低減し、第2回INC※10で日本が世界に向けて提案した、2040年までに海洋プラスチックによる追加的な汚染をゼロにすることへ貢献します。

【注釈】
※1 本事業
※2 生分解
有機化合物が微生物によって水や二酸化炭素などの無機物まで分解されることです。
※3 フラビカファイン®SILKYタイプ
疎水化処理したアルギン酸粒子の粉体で、高い生分解性と滑らかな触感が特徴であり、プラスチックビーズの代替素材となる素材です。
フラビカファイン®SILKYタイプ
※4 樹脂添加剤
プラスチックに混ぜることでさまざまな機能性を付与する材料です。
※5 溶融混練
プラスチックを混合する手法の一つで、プラスチック同士を高温で溶かして混ぜ合わせることです。
※6 海水を用いた生分解性試験
アメリカ材料試験協会(ASTM)が定めた、測定物質を海水にさらした容器中で培養し、生物化学的酸素要求量(BOD)を測定することで海水中での好気的生分解度を求める方法(ASTM D6691)に基づき実施したものです。
※7 土壌中での生分解性試験
国際標準化機構(ISO)が定めた、測定物質を土壌と混合した容器中で培養し、BODを測定することで土壌中での好気的究極生分解度を求める方法(ISO17556(JIS K6955))に基づき実施したものです。
※8 活性汚泥
人工的に培養された活性の高い微生物群を含む汚泥の総称で、下水処理などで使用されています。
※9 活性汚泥中での生分解性試験
経済協力開発機構(OECD)が定めた、測定物質を活性汚泥が入った密閉容器中で培養し、BODを測定することで活性汚泥中での好気的生分解度を求める方法(OECD TG301F)に基づき実施したものです。
※10 INC(政府間交渉委員会)
プラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際文書策定に向けた政府間交渉委員会のことです。2022年11月にウルグアイで行われた第1回交渉に続き、2023年5月~6月にフランスで別ウィンドウで開きます第2回交渉が行われました。
4.問い合わせ先

(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)
NEDO 材料・ナノテクノロジー部 担当:宇津木
日清紡ホールディングス 新規事業開発本部

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)
NEDO 広報部 担当:瀧川、坂本(信)、黒川、根本

0504高分子製品
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