糖含量の高い牧草オーチャードグラス品種「えさじまん」の標準作業手順書を公開

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2023-02-27 農研機構

ポイント

農研機構は、糖含量が高く、越冬性および収量性が高く安定しているオーチャードグラス新品種「えさじまん」について、今後さらなる普及拡大を進めるために、本日、栽培管理法等をまとめた標準作業手順書1)をウェブサイトで公開しました。

概要

近年、自給飼料生産組織等による飼料供給体制が拡大する中で、自給粗飼料の生産管理に係る労働力不足が課題となっています。その解決策の一つが、出穂時期の異なる草種を組み合わせて利用することです。

オーチャードグラスは、チモシーより出穂が早いため、採草地の一部をチモシーからオーチャードグラスに置き換えることで収穫作業の集中を回避することができ、管理面積の拡大が可能になります。

これまで飼料品質や越冬性などの面から利用が拡大していないオーチャードグラスですが、農研機構が雪印種苗株式会社と共同で育成した北海道および北東北地域向けオーチャードグラス新品種「えさじまん」は、既存品種に比べて糖含量が高く、越冬性および収量性が高く安定しており、サイレージ発酵品質が良好です。

このため農研機構では、今後見込まれるオーチャードグラスの利用拡大に向けて、「えさじまん」の利用による自給飼料の高品質化と生産性向上を図るため、栽培管理法等をまとめた「北海道および北東北地域向けオーチャードグラス高WSC2)含量品種『えさじまん』標準作業手順書」 (図1) を作成しました。

標準作業手順書では、「えさじまん」の栄養収量や飼料品質における優位性、導入時に必要な手順、留意点等を解説しています。本手順書を活用することで、「えさじまん」の普及拡大を通した自給飼料生産の拡大が期待されます。

【標準作業手順書掲載URL】
北海道および北東北地域向けオーチャードグラス高WSC含量品種「えさじまん」
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/laboratory/naro/sop/157430.html

関連情報

予算 : 農林水産省委託プロジェクト研究「食用米との識別性を有する多収飼料用米、TDN収量が高い飼料作物品種の開発」および「栄養収量の高い国産飼料の低コスト生産・利用技術の開発」ならびに運営費交付金

品種登録番号 : 第25796号 (2017年3月15日登録)

問い合わせ先など

研究推進責任者 :
農研機構北海道農業研究センター 所長奈良部 孝

研究担当者 :
同 寒地酪農研究領域 グループ長補佐眞田 康治

広報担当者 :
同 広報チーム長花井 智也

詳細情報

開発の社会的背景・経緯

北海道においては、約53万ha (農林水産省作物統計、2021年) の広大な牧草地から生産される自給飼料を基盤とする一方で、飼料の約50%を輸入飼料に依存しています (北海道農政部、2019年) 。飼料費削減のためには、濃厚飼料の一部を高栄養な自給粗飼料と置き換える必要があります。また、北海道に比べて粗飼料自給率の低い都府県においては、輸入粗飼料削減のために自給粗飼料の生産拡大を図る必要があります。自給粗飼料には、乳生産性向上のため、いっそうの高品質化と生産性向上が求められ、さらに冬季の低温などの気象環境に対して安定した生産性が求められます。

オーチャードグラスは、北海道から九州の高地までの広い地域で栽培されている主要なイネ科牧草であり、北海道では同じイネ科牧草のチモシーに次ぎ生産が多く、東北から九州地域においても基幹イネ科牧草として重要な草種です。耐寒性など環境耐性に優れるとともに、シバムギなど地下茎型イネ科雑草との競合力にも優れ、良好な植生を維持できることが知られています。さらに、再生力に優れることからマメ科牧草との混播にも適しており、施肥量の削減が可能となります。

農研機構北海道農業研究センターでは、北海道におけるオーチャードグラスの過去の大規模な冬枯れ3)の経験から、越冬性の改良を主要な育種目標としつつ、これに加えて飼料品質の改良に着手し、既存品種より糖含量が高く、越冬性および収量性が安定している北海道、北東北向けの中生なかて品種「えさじまん」を育成しました。「えさじまん」は、2017年に品種登録され、2021年4月から種子販売を開始しています。標準作業手順書を活用して本品種の普及を進めることにより、自給飼料の高品質化と生産性向上が図られます。

研究の内容・意義
  1. 本手順書I章「品種の概要と特徴」において、「えさじまん」のWSC (糖) 含量が中生標準品種「ハルジマン」より約3ポイント高く、TDN4)収量は「ハルジマン」比109%と多収であること、サイレージ発酵品質が良好であること、マメ科牧草アルファルファとの混播栽培においてマメ科率5)が適正な値であること (図2) 等を紹介しています。
  2. 本手順書II章「栽培管理」において、「えさじまん」の栽培暦 (図3-1および図3-2) を採草利用など利用法ごとに記載し、草地造成における標準的な播種量、収穫・調製における作業体系、施肥基準に準じた施肥管理法、サイレージ調製における留意点や刈取り危険帯など栽培上の注意事項等を、地域ごとに紹介しています。
  3. 本手順書III章「『えさじまん』の導入手順」において、種子の入手先 (雪印種苗(株)) を紹介しています。
今後の予定・期待

オーチャードグラスは、北海道および北東北の青森県と岩手県において植生改善と気象リスク分散のために、今後栽培面積が増加すると予測されます。栄養収量の多い「えさじまん」の導入に際しては、本手順書を有効に活用して、酪農家およびTMRセンター6)等の自給飼料生産組織等を対象として普及活動に取り組みます。

用語の解説
1)標準作業手順書 (SOP : Standard Operation Procedures)
技術の必要性、導入の条件、具体的な導入手順、導入例、効果等を記載した手順書。農研機構は重要な技術についてSOPを作成し社会実装 (普及) を進める方針としています。
2)WSC (水溶性炭水化物)
Water soluble carbohydrateの略。グルコース (ブドウ糖) 、フルクトース (果糖) 、スクロース (ショ糖) と貯蔵性炭水化物 (寒地型イネ科牧草ではフルクタン) の合計。植物の液胞中に存在します。
3)冬枯れ
冬期に発生する障害により作物が枯死する現象。主な原因は、凍害と雪腐病害です。凍害は、積雪の少ない地域で発生し、牧草が厳しい低温に晒されることにより被害を受けます。雪腐病は、道央や道北など積雪の多い日本海側では雪腐黒色小粒菌核病が主に発生し、道東の太平洋側など積雪の少ない地域では雪腐大粒菌核病が主に発生します。雪腐大粒菌核病は、病原性が強く、牧草に大きな被害を及ぼすことがあります。1975年春に道東を中心に雪腐大粒菌核病による大規模な冬枯れが発生し、牧草の被害面積は約11万2千haに及びました (及川ら(1975) 北海道草地研究会報10:80-84.) 。
4)TDN (可消化養分総量)
Total digestible nutrientsの略。飼料の栄養価の指標で、飼料中の可消化養分から算出されます。TDN収量は、単位面積当たりの可消化養分の収量 (栄養収量) 。
5)マメ科率
イネ科牧草とマメ科牧草の混播栽培において、牧草収量に占めるマメ科牧草の比率。30~60% (乾物中) 程度が適正範囲とされています。
6)TMRセンター
TMRはTotal Mixed Rationの略で、粗飼料、濃厚飼料、ビタミン等の添加物などをバランス良く組み合わせた飼料です。TMRセンターは、TMRを大規模に調製し畜産農家に供給する施設です。
発表論文

眞田ら(2020) オーチャードグラス新品種「えさじまん」の育成とその特性. 農研機構研究報告、4:17-40、https://www.jstage.jst.go.jp/article/naroj/2020/4/2020_17/_pdf/-char/ja

参考図

図1 標準作業手順書の表紙

図2 「えさじまん」とマメ科牧草アルファルファ各品種との混播栽培における
年間合計乾物収量(カッコ内の数字)とマメ科率(カッコなしの数字)

注) マメ科率30~60% (乾物中) 程度が適正範囲。横軸の「ウシモスキー」「ハルワカバ」「ケレス2」はアルファルファの品種名。「えさじまん」+ マメ科収量を比較するために、雑草を下部に表記。乾物収量とマメ科率は、2018-2020年の3カ年平均、マメ科率は3カ年とも概ね適正範囲、北農研(札幌)における調査。

図3-1 「えさじまん」の栽培暦 (北海道、抜粋)

図3-2 「えさじまん」の栽培暦 (北東北、抜粋)

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