2023-02-23 国立天文台
図1:マウナケアの空に現れた珍しい放電現象「レッド・スプライト」。一瞬の現象ですが、星空ライブカメラの熱心な視聴者の方々が見つけました。(クレジット:国立天文台・朝日新聞社)
2023年1月末から 2月にかけて、すばる望遠鏡の「星空ライブカメラ」が捉えた3つの映像が世界中の注目を集めました。最初は 1月18日にカメラが捉えた「青い渦巻」、次は 1月28日の「緑色のレーザー光」、そして3番目は 2月4日の「レッド・スプライト」です。メディアからの問い合わせが何件もハワイ観測所へ寄せられたため、その対応策として、最初の2つは、ハワイ観測所のウェブサイトに記事を掲載しました。3番目の「レッド・スプライト」では、地元ハワイのメディアから「現場の天文学者からこの1ヶ月がどれだけエキサイティングなものだったかをコメントしてもらえないか」という問い合わせがありました。その返答として、ハワイ観測所で星空ライブカメラを運営する田中壱が寄せたコメントを以下にご紹介します。
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「星空ライブカメラ」が捉えた映像についてコメントします。「レッドスプライト」以外では、「青い渦巻」と「緑のレーザー光」がメディアで話題になっていますね。どちらも、私にとっては本当に素晴らしい景色です。ただ、「レッドスプライト」以外は、これらの「珍しい」現象は、すべて人間の営みと関係していることを強調しておきます。
これらの映像を見ると、私たちは 21 世紀にいるのだと実感します。私もそうですが、子どもの頃に宇宙開発を夢見た人は、21 世紀は宇宙開発の時代だと思っていたのではないでしょうか。そして、それを証明するのが、今回の出来事です。今回のような映像を珍しいと思われるかもしれません。でも、10 年以内には、もっともっと普通のことになるでしょう。人類のフロンティアはすでに月や火星、太陽系内の天体に移り、あらゆる最先端技術が宇宙で応用されるようになるでしょう。これらは、そんな時代の一端を切り取ったものに過ぎません。
今回のイベントも技術的な進歩があったからこそ、記録できたのでしょう。私たちのカメラは非常に高感度です。微弱なものや高速で動くものを正確にとらえることができるのです。また、YouTube が提供するライブ配信のプラットフォームも素晴らしいサービスです。マウナケアの空の美しさを、ライブ配信で世界中に届けることができるのですから。
マウナケアは空が暗く、晴天率が高いので、ほぼ毎晩、光害のない星空を見ることができます。そして、毎晩ドラマがあります。ゆっくりと動く星や惑星、時には流星や人工衛星、時には彗星、雲、そして美しい朝の空、それらはただただ美しいのです。ライブ配信の場に人々は集まり、おしゃべりをしたり、感動を分かち合ったり、科学に関する知識を得たりして、その眺めを楽しむ。もちろん、時には珍しいものを発見することもある。私たちが Youtube チャンネルにまとめた事象は、そんな鋭敏で素晴らしい鑑賞者たちによって初めて指摘されたものです。10 年前には想像もしなかった、新しい空の楽しみ方で、ただただ驚くばかりです。
特に、ハワイの子どもたちや若い学生たちが、このカメラを通して星や惑星、ひょっとしたらその奥にある深い宇宙に興味を持ってくれたら、天文学者としては嬉しい限りです。宇宙はそれ自体がとても美しく、素晴らしいものです。天体のことを学ぶのは、とても楽しいことです。一生の趣味として、人生をちょっとだけ豊かに、広くしてくれるかもしれません。
もうひとつ、このカメラで嬉しいと感じるのは、「これがハワイの空だ!」と視聴者に分かってもらえることです。このライブ配信を通じて、(大都市では光害ですでに失ってしまった人もいる)「本当の星空の景色」がここハワイにあることを、世界中の人に知ってもらえるから嬉しいんです。ハワイ島を訪れた人は、ちょっと外に出て、空を見上げてみてほしいですね。宇宙がこんなにも身近にあることに気づくはずです。この美しい夜空が私たちの誇りです。
田中壱(ハワイ観測所 シニア・サポートアストロノマー)