2024-12-05 九州大学
理学研究院 岡崎 裕典 教授
ポイント
- 日本海の水温は日本海側の冬季豪雪など日本列島の気候に大きな影響を及ぼしますが、最終氷期(2万年前)の日本海水温は復元できていませんでした。
- 微小なプランクトン化石群集を用いた新しい水温指標を確立し、最終氷期(2万年前)の日本海水温復元に成功しました。
- 日本海の長期水温復元記録は、日本列島の風土が最終氷期からどのように移り変わって現在へ至ったのかを知るための重要な情報となります。
概要
水深の浅い海峡で他海域とつながる日本海は、海面が100m以上低下した最終氷期(2万年前)に対馬暖流※1が流入できなくなり低塩分化が進みました。過去の海水温復元に使用される既存の古水温指標が低塩分環境で使えないため、最終氷期の日本海水温が何℃だったのかわかっていませんでした。
本研究では、新たに確立した水温指標を用いて過去2万年間の日本海における年平均水温変化を復元し、最終氷期の水温が北海道西方で約4℃(現在10℃)・福井沖で約5℃(現在18℃)と、現在のオホーツク海並みであったことを明らかにしました。
九州大学大学院理学研究院の岡崎裕典教授、理学府修士課程(研究当時)の谷崎恭平氏、西園史彬氏、江頭一騎氏、友川明日香氏、国立研究開発法人海洋研究開発機構の小野寺丈尚太郎主任研究員、金沢大学の佐川拓也准教授、富山大学の堀川恵司教授、国立研究開発法人産業技術総合研究所の池原研首席研究員の研究グループは、ガラス質の骨格をつくる珪質鞭毛藻※2というプランクトンに注目し、現在の北太平洋に生息する珪質鞭毛藻種の分布と水温の関係を、日本海の北海道西方と福井沖で採取した海洋コア試料※3中の珪質鞭毛藻群集に当てはめることで、過去2万年間の水温変動を復元しました。
日本海の水温は、日本海側の降水・降雪をはじめとした日本列島の気候に重要な役割を果たしています。今回の研究成果は、私たちが暮らす日本列島の気候や自然が過去2万年間にどのような移り変わりを経て現在へ至ったかを知るための基礎的な情報の一つとなるものです。
本研究成果は、日本地球惑星科学連合のProgress in Earth and Planetary Science 誌に、2024年12月5日(木)(日本時間)に掲載されました。
研究者からひとこと
観測記録が存在しない有史以前の気候変動は、天然の試料に残された断片的な記録から復元されます。私たちは海底堆積物に含まれる0.1ミリメートルほどの小さな化石を使って長期気候変動の解読を進めています。
用語解説
※1 対馬暖流
東シナ海で黒潮から分岐し、対馬海峡を通じて日本海へ流入する暖流。
※2 珪質鞭毛藻
海洋に生息する植物プランクトンで、ケイ酸質の内骨格を形成する。
※3 海洋コア試料
金属パイプを海底に突き刺して採取した柱状の海底堆積物試料。
論文情報
掲載誌:Progress in Earth and Planetary Science
タイトル:Silicoflagellate assemblages in the North Pacific surface sediments: an application of the modern analog method to reconstruct the glacial sea surface temperature in the Japan Sea
著者名:Yusuke Okazaki, Jonaotaro Onodera, Kyohei Tanizaki, Fumiaki Nishizono, Kazuki Egashira, Asuka Tomokawa, Takuya Sagawa, Keiji Horikawa, Ken Ikehara
DOI:10.1186/s40645-024-00661-8
本研究の詳細についてはこちら
お問い合わせ先
理学研究院授 岡崎 裕典 教授