2024-06-24 名古屋大学
名古屋大学大学院工学研究科の山内 悠輔 卓越教授、Yunqing Kang(カン ユンチン)外国人特別研究員(JSPS)、早稲田大学理工学術院の朝日 透 教授らの研究グループは、豪州クイーンズランド大学との共同研究で、アモルファス(非晶質)の金属骨格からなるナノ多孔体を支持体として用いて、貴金属原子を均一に孤立分散させる方法を提案しました。
特に、原子レベルで分散した白金族金属注3)の原子は独特の幾何学的構造を持ち、高い原子利用効率を実現できるため、次世代ナノ触媒注4)として非常に有望です。近年では、カーボン支持体注5)に単核の金属活性点が固定化されたシングルサイト触媒注6)が注目されていますが、多くの場合、これらの金属はイオン状態であり、カーボン支持体とは配位結合しています。そのため、構造的な安定性に欠けるなどの問題がありました。
本研究では、均一に白金原子を分散させる理想的な支持体として、均一なメソ細孔を持ち、骨格がアモルファス状態のニッケルで構成されたナノ多孔体を提案しました。高い表面積を有する支持体上での置換メッキ注7)により、白金原子が孤立形成し、最大で12 wt%までの均一に分散させることが可能になりました。Pt原子とNi原子は金属結合で結ばれており、優れた電気触媒による水素発生性能を示し、長時間にわたり安定した状態でした。また、本手法により他の金属原子や複数の種類の金属原子なども同時に孤立して形成させることもでき、シングルサイト触媒の新たな合成法として今後注目されると期待しています。
本研究成果は、2024年6月21日付オープンアクセス雑誌「Science Advances」にて掲載されました。
【ポイント】
・アモルファス(非晶質)注1)骨格の金属ナノ多孔体注2)上での置換メッキにより貴金属シングルアトム(単一原子)を析出
・高い表面積の支持体を利用することで、貴金属原子を12 wt%程度まで導入させることに成功
・高活性な水素発生電極触媒として機能し、高い安定性を保持
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【用語説明】
注1)アモルファス(非晶質):
原子が規則正しく並んでおらず、結晶構造を持たず、無秩序に配置されている状態を特徴とする。これにより、特定の物理的特性や化学的特性が生じ、さまざまな応用分野で重要な役割を果たしている。
注2)ナノ多孔体:
ナノメートル(1ナノメートル=10億分の1メートル)スケールの細孔(ポア)を持つ材料のことを指す。これらの細孔は、材料全体の特性に大きな影響を与え、特に表面積の増大や物質の吸着、触媒反応、分子の分離などの応用において重要。
注3)白金族金属(Platinum Group Metals, PGM):
周期表の第5族および第6族に属する6つの貴金属を指す。具体的には、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)。これらの金属は、化学的性質や物理的性質が類似しており、特に触媒としての優れた性能から広く利用されている。
注4)ナノ触媒:
ナノメートル(1ナノメートル=10億分の1メートル)サイズの粒子を持つ触媒のこと。その極小サイズによって特有の物理的、化学的特性を持ち、従来の触媒よりも高い触媒活性や選択性を示すことが多い。
注5)支持体:
触媒における支持体とは、触媒活性物質を保持し、その分散を助けるための材料のこと。
注6)シングルサイト触媒:
触媒活性の中心となる金属原子が単一の原子として存在する触媒のことを指す。
注7)置換メッキ(ちかんめっき):
ある金属基質上に別の金属を析出させる化学プロセスの一つ。このプロセスでは、基質となる金属が溶液中の別の金属イオンと化学的に反応し、基質の表面に新しい金属が析出することによって、メッキ(薄い金属層)が形成される。この反応は、基質金属の溶解と新しい金属の析出が同時に進行するため、置換メッキと呼ばれる。
【論文情報】
雑誌名: Science Advances
論文タイトル:Mesoporous amorphous non-noble metals as versatile substrates for high loading and uniform dispersion of Pt-group single atoms
著者:Yunqing Kang(外国人特別研究員)(名古屋大学), Shuangjun Li, Ovidiu Cretu, Koji Kimoto, Yingji Zhao, Liyang Zhu, Xiaoqian Wei, Lei Fu, Dong Jiang, Chao Wan, Bo Jiang, Toru Asahi(早稲田大学), Dieqing Zhang, Hexing Li, Yusuke Yamauchi(名古屋大学)
DOI: 10.1126/sciadv.ado2442
URL: https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.ado2442
【研究代表者】
大学院工学研究科 山内 悠輔 教授