2018/10/04 国立天文台
すばる望遠鏡 オリジナルサイズ(682KB)
太陽系の外縁部には、未発見の小天体が数多くあると考えられています。このたび、すばる望遠鏡の観測画像から、そのような天体の一つが発見されました。天体の軌道はこれまで発見されたなかで最も大きく、太陽を一周するのに3万6千年ほどもかかると推定されています。私たちが知る太陽系の範囲が、また一歩広がったと言ってよい発見です。
2018年10月3日 (ハワイ現地時間)
米国・カーネギー研究所などの研究チームは、すばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam (ハイパー・シュプリーム・カム, HSC) を使い、太陽系の外縁部に新たな天体を発見しました。この新天体は、冥王星よりも大きな軌道を回っており、その軌道の性質は、太陽系外縁部に存在すると理論的に予測されている新惑星の存在を支持すると研究チームは考えています。
図1: 2015年10月13日にすばる望遠鏡が撮影した、新天体 2015 TG387 の発見画像。3時間ごとに撮影された画像から、新天体の動きが見て取れます。(クレジット:Dave Tholen, Chad Trujillo, Scott Sheppard)
この新天体「2015 TG387」は、太陽-地球間の距離の約 80 倍 (80 天文単位) という、たいへん遠くにあるところを発見されました。現時点の冥王星と比べると、2.5 倍も外側になります。
「私たちが探している天体はとても暗く、また、どの方角に存在していてもおかしくありません。そのため、より広い範囲を、より暗い天体まで探し出せる性能が重要です。その意味で、HSC とすばる望遠鏡の組み合わせは、この研究にとってとても強力なものです」と、研究チームの David Tholen さん (ハワイ大学) は語ります。
新天体 2015 TG387 はとても細長い軌道を回っています。近日点 (軌道の中で太陽に最も近い位置) の距離は 65 天文単位です。これよりも近日点が遠い天体は、今のところ「2012 VP113」と「セドナ」の2天体だけしか知られていません。さらに、2015 TG387 の軌道長半径は 2012 VP113 やセドナよりも大きく、遠日点はおよそ 2300 天文単位にも達します。木星や海王星といった太陽系の巨大惑星から重力的な影響をほとんど受けていない、数少ない天体の一つなのです。
「2015 TG387、2012 VP113、セドナなどの、いわゆる『内部オールト雲天体』の運動は、太陽系のより内部にある惑星による重力の影響が少ないため、太陽系外縁部に他にどのような天体があるかを知るためにとても重要です」と、研究チームの Scott Sheppard さん (カーネギー研究所) は説明します。
図2: 新天体 2015 TG387 の軌道を、2012 VP113 およびセドナと比較した図。(クレジット:Roberto Molar Candanosa, Scott Sheppard / カーネギー研究所)
「太陽系外縁部には 2015 TG387 のような天体が何千個もあるのでは、と私たちは考えています。ただし遠くにあるため、見つけるのがとても難しいのです」と Tholen さんは指摘します。「2015 TG387 も、太陽からの距離が比較的近いときにしか見つけ出すことができません。この天体が太陽を1回公転する4万年弱のうち 99 パーセントの位置では、現在人類が持っている最大の望遠鏡でも暗すぎて観測するのが不可能です。」
Sheppard さんは付け加えます。「このような太陽系外縁天体は、私たちを新惑星の発見に導く手がかりとなります。たくさんの小天体が見つかるほど、私たちは太陽系外縁部をより正しく理解することができ、まだ見ぬ惑星の姿が浮かび上がってくるのです。ひいては、太陽系の進化の歴史を捉え直すことができるようになります。」
2015 TG387 は公転周期が長く、とてもゆっくりとしか移動しないために、軌道を精度よく決めるのに研究チームは数年の年月を費やしました。2015年10月にすばる望遠鏡で初めて観測された後、チリのマゼラン望遠鏡とアリゾナのディスカバリー・チャンネル望遠鏡で2018年にかけて追観測が行われ、軌道の精度が高められました。
2015 TG387 の直径はおよそ 300 キロメートルで、準惑星だとすると小さなものだと考えられています。また、2015 TG387 の近日点は、2012 VP113 やセドナといった極めて遠方にある既知の太陽系外縁天体のそれと、近い方向にあります。これはつまり、「何か」がこれらの天体を似た軌道に押しやった、ということを示唆します。
研究チームの Chad Trujillo さん (北アリゾナ大学) と Nathan Kaib さん (オクラホマ大学) は、未知の天体が 2015 TG387 の軌道にどのような影響を及ぼすのかを、計算機シミュレーションによって調べています。Trujillo さんは「シミュレーションの結果、存在するかもしれない新惑星は、他の太陽系外縁天体と同様に 2015 TG387 の軌道にも影響を及ぼすことがわかりました。新惑星そのものの存在を証明するものではありませんが、太陽系の外縁部に何か大きな天体が存在するかもしれない、ということを示唆するものです」と、結論づけています。
太陽系天体を専門とする渡部潤一・国立天文台副台長は、「すばる望遠鏡の特長である、微光天体を広い視野で観測できる能力が生かされた結果であり、今後も同様の天体が発見され、太陽系の外縁部の様子が解明されていくことが期待されます」とコメントしています。
2015 TG387 の発見は、国際天文学連合小惑星センターが発行する Minor Planet Electronic Circular によって、2018年10月1日付けで公表されました。またこの天体についての詳細な論文は、プレプリントサーバー (https://arxiv.org/) で公開され (Scott S. Sheppard, Chadwick A. Trujillo, David J. Tholen, Nathan Kaib 2018, arXiv:1810.00013, “A New High Perihelion Inner Oort Cloud Object”)、また米国の『アストロノミカル・ジャーナル』に投稿されています。
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