2024-03-19 愛媛大学
愛媛大学理学部佐藤久子研究員(プロジェクトリーダー)のグループは、東邦大学医学部の山岸晧彦研究員、物質材料研究機構の田村堅志グループリーダー、日本大学文理学部の吉田純准教授との共同で、粘土鉱物を用いた新しい光学分割カラムの開発に成功しました。
光学分割には高度で精密に制御された分子認識機構が必要です。本研究では環境にやさしい粘土鉱物として、球状に成形した合成ヘクトライトと銅錯体との複合体の作成によってそれを実現し、得られた複合体をステンレスチューブに充填し光学分割用カラムを作成しました。その結果、光学分割が困難である中性錯体や有用な光学活性有機物などの光学分割に成功しました。さらに、錯体間の相互作用の理論計算から、立体選択性の分子メカニズムを明らかにしました。
このようにして得られた新規光学分割カラムは、環境にやさしい粘土鉱物を用いており、実用的にも有望であることが示されました。
研究成果のポイント
- 環境調和型粘土鉱物を用いた光学分割カラムの開発
- 光学分割という高度機能への粘土鉱物の利用
- 新しい修飾剤として均一系不斉合成触媒に用いられている銅錯体を利用
光学分割という高度機能への環境にやさしい粘土鉱物の利用
詳細
右手左手の関係にある物質(キラル物質)の一方の型(エナンチオマー)を得ることは高度な分子認識機構が必要である。本研究では、新しい修飾剤として、不斉合成で用いられているCu(II)錯体 ([Cu(RR– or SS-oxa)]2+ (oxa = 2,2′-isopropylidene-bis(4-phenyl-2-oxazoline))を合成した。メタノール溶媒に分散した球状合成ヘクトライトにCu(II)錯体を加えてろ過し、粘土鉱物と錯体とのイオン交換体を得た。得られた青緑粉末をステンレスチューブ(5cm × 4mm (i.d.))に充填してカラムとした。分割能を調べるために、光学活性な中性金属錯体として他の方法では分割困難な[Co(acac)3] (acacH = 2, 4-pentanedione) を選んだ。このCo(III)錯体を注入後、メタノール溶媒により流速0.2 mL/minで溶出した。検出は600nmの吸光度で行った。溶離曲線は二つのピークを示し、各ピークで分取したサンプルを円偏光分光スペクトルで分析した。
この結果、この錯体のほぼ完全な光学分割に成功したことが確かめられた。第1原理シミュレーションから、[Cu(SS-oxa)]2+の配位不飽和サイトが不斉識別を行っていることがわかった。さらに、各種の光学活性な有機分子の光学分割にも成功した。 この結果は産業界でも要求の大きい光学分割カラムとして、環境にやさしい粘土鉱物を用いており実用的にも有望であることが示された。
論文情報
掲載誌:Applied Clay Science
題名:Use of an Ion-exchange Adduct of Synthetic Hectorite and Chiral Copper(II) Complex as a Packing Material for Chromatographic Resolution.
(和訳:合成ヘクトライトとキラル銅錯体の複合体を用いた液体クロマトグラフィー用光学分割カラム)
著者:Akihiko Yamagishi; Kenji Tamura; Masumi Kamon; Jun Yoshida; Hisako Sato.
DOI:10.1016/j.clay.2024.107290
URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0169131724000371
本件に関する問い合わせ先
愛媛大学理学部
研究員 佐藤 久子