2023-02-09 森林総合研究所
ポイント
- 西洋料理の高級食材のきのこであるトリュフは国内にも自生し、その栽培化が期待されています。
- 国産の白トリュフであるホンセイヨウショウロを初めて人工的に発生させることに成功しました。
- 栽培技術を確立することより、ホンセイヨウショウロが新たな食材として安定供給されるとともに、その風味を活かした加工品の開発など新たな産業の創出が考えられます。
概要
国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所は、国産のトリュフであるホンセイヨウショウロを人工的に発生させることに成功しました(図1)。これは、国内では初となるトリュフの人工的発生になります。
当所では、平成27年度から国産トリュフの栽培化を目指した研究に取り組んできました。その中で、ホンセイヨウショウロ菌を人工的に共生させたコナラ苗木を国内の試験地に植栽したところ、令和4年11月にその子実体の発生を確認しました。ホンセイヨウショウロ菌が樹木の根に完全に定着し、土壌中で増殖して子実体を形成したものと考えられます。ホンセイヨウショウロはヨーロッパ産の白トリュフと同様に独特の風味を有しており、高級食材として今後大きな市場を産むことが考えられます。当所では今後、ホンセイヨウショウロの安定生産を目指した栽培技術の確立を進めていきます。
図1. ホンセイヨウショウロを共生させた苗木を植栽した後に発生した子実体
左:京都府内試験地で発生、右:茨城県内試験地で発生
背景
トリュフは西洋料理に欠かせない高級食材となるきのこで、その芳醇な香りを楽しみます。トリュフはイタリア、スペイン、フランスなどが有名な産地です。近年、我が国でも食文化の多様化を受けて、トリュフの香りを楽しむ機会が増えています。国内で流通するトリュフは全てが海外からの輸入によるものです。産地によってその価格は異なりますが、欧州産はキログラム当たり約8万円(2020年度財務省貿易統計)で輸入されており、きのこの中で最も高額に取引されています。
我が国でも、20種以上のトリュフが自生し、その中には食材として期待のできる種も存在しましたが、野生のトリュフは希少で人工栽培技術は確立されていませんでした。そこで、国産トリュフの栽培化を目指し、平成27年度から当所を中核機関とした研究プロジェクトを開始しました。
内容
トリュフは生きた樹木の根に共生して増殖する菌根菌と呼ばれる菌類(図2)に属しており、人工的にこれらの子実体を発生させるには、樹木との共生関係を明らかにして、それを再現することが重要です。海外では樹木の根にトリュフ菌を共生させた苗木を植栽することでトリュフの栽培が行われてきています。そこで、我々研究グループでは、国内のトリュフの自然発生地で調査を進めて、トリュフの生育に適した樹種や土壌環境を解明し、それらの条件を再現して国産種のトリュフを発生させることを目指しました。
食材として有望な国産白トリュフであるホンセイヨウショウロを共生させたコナラ苗木を、国内各地の4つの試験地に植えて栽培管理を行いました。その結果、茨城県内の試験地(平成29年10月植栽)および京都府内の試験地(令和元年4月植栽)にて、令和4年11月に、それぞれ8個および14個の子実体発生を確認しました(図1)。これら子実体の形態や遺伝情報に基づいてホンセイヨウショウロであることを確認しました。
図2. 菌根菌の増殖様式
菌根菌は樹木の根に共生し樹木から光合成産物を獲得します。反対に、菌根菌は土壌中に栄養菌糸を拡げて、養水分を効率的に集めて、樹木に供給します。菌根菌はこのように樹木との共生関係を成立させて増殖します。
今後の展開
国産の白トリュフであるホンセイヨウショウロは、大きさは10cm以上にもなる場合もあります。欧米の白トリュフ同様の香りがすることから、新たな食材としての価値が期待されます。このトリュフの栽培技術が確立されれば、国産トリュフが新たな季節の食材として、広く安定的に提供され、国民の食卓に並ぶほか、その風味を活かした加工品などの開発や海外への輸出など大きな市場を生むことが考えられます。
現在、4箇所の試験地のうち2箇所で子実体の発生を確認しています。今後は、これらの栽培環境を比較してトリュフの安定的な発生に適した栽培条件を明らかにするとともに、栽培から収穫に至るまでの作業工程を検討して実用化に向けた研究開発を進めていきます。
研究費
農林水産省委託プロジェクト研究「森林資源を最適に利用するための技術開発—高級菌根性きのこ栽培技術の開発」(平成27年度~令和元年度)、生物系特定産業技術研究支援センター・イノベーション創出強化研究推進事業「国産トリュフの林地栽培に向けての技術体系の構築」(令和4年度~令和6年度)
お問い合わせ先
研究担当者:
森林総合研究所 東北支所 支所長 山中高史
広報担当者:
森林総合研究所 企画部広報普及科広報係