2022-02-02 アメリカ合衆国・アルゴンヌ国立研究所(ANL)
・ ANL とシカゴ大学が、オンデマンドでの量子ビット情報の読み出しと、5 秒間を超える量子状態持続の新記録を達成。
・ 電球や高電圧エレクトロニクスで広く利用される、扱いやすい材料の炭化ケイ素(SiC)による量子ビットを使用。量子通信プラットフォームの最前線に SiC を位置付け、スケーラブルでコスト効果的な技術を利用した量子イノベーションの新しい道筋を開く。
・ ハッキング不可能な通信ネットワークや新薬の発見を促進する量子コンピューター等の技術アプリケーションを見込む量子科学において、量子情報を記憶する量子ビットは不可欠なもの。しかし、量子ビット情報の読み出し易さや、ミクロ~ミリ秒に制限される量子ビットのコヒーレンス時間(情報を保持している時間)の向上の課題がある。
・ 今回達成した 5 秒間は、月と地球の間での光速信号の往復に充分な時間であり、光を介した量子ビットからの情報の送信において有効となる成果。地球の周りを約 40 回往復後も光が量子状態を正しく反映し、分散型量子インターネットの可能性を提示する。
・ 半導体量子ビットでは、レーザー照射で返る光を計測する読み出しの方法が一般的だが、フォトン(光子)を効果的に検出することが難しい。本研究では、0 または 1 の初期量子状態に応じてレーザーパルスにより電子 1 個を量子ビットに追加し、従来と同様にレーザーで量子ビットの情報を読み出す、シングルショットリードアウトと呼ばれる方法でこの課題に対処した。
・ 不安定な量子状態を安定した古典的な電子の領域に変換することで、量子状態の読み出しを大幅に容易化。また、信号の約 10,000 倍の増量により、量子ビットの状態確認時に毎回信頼性の高い答えが獲得できる。
・ 量子機能に干渉し易いノイズを低減する、高純度の SiC サンプルを成長させ、マイクロ波パルスを量子ビットに照射することでコヒーレンス時間を延長。これらのパルスが量子状態を高速で切り替え、量子ビットをノイズ源から分離する。
・ 今回達成したコヒーレンス時間をさらに延長することも可能。コヒーレンス時間は、量子コンピューターの演算能力や量子センサーの検出能力等に多大な影響を及ぼすもの。
・ 本研究は、米国エネルギー省(DOE) 基礎エネルギー科学局(BES)の材料科学・工学部(MSE)および DOE 量子情報科学研究センター、米国立科学財団(NSF)、ボーイング社、スウェーデン研究評議会、日本学術振興会(JSPS)、米国空軍科学研究局(AFOSR)およびクヌート・アンド・アリス・ウォーレンバーグ財団(KAW)が支援した。
URL: https://www.anl.gov/article/researchers-set-record-by-preserving-quantum-states-for-more-than-5-seconds
<NEDO海外技術情報より>
(関連情報)
Science Advances 掲載論文(フルテキスト)
Five-second coherence of a single spin with single-shot readout in silicon carbide
URL: https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.abm5912