EVバスによる地域余剰太陽光電力利用の実証実験開始~地域エネルギーマネジメントでエネルギーの地産地消とカーボンニュートラルに貢献~

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2025-02-19 早稲田大学

EVバスによる地域余剰太陽光電力利用の実証実験開始~地域エネルギーマネジメントでエネルギーの地産地消とカーボンニュートラルに貢献~

早稲田大学スマート社会技術融合研究機構(ACROSS)会長の林 泰弘(はやし やすひろ)教授、宇都宮大学地域デザイン科学部の長田 哲平(おさだ てっぺい)准教授らの研究グループは、地域で発電した太陽光発電の余剰電力を電動バス(以下、EVバス)に最適充電することで地域エネルギーを有効活用し、CO2排出削減にも貢献する「電力×交通セクターカップリングによるスマートエネルギーマネジメントシステム」の実証実験を宇都宮市で開始します。本実証実験では、EVバスが宇都宮市内の既存バス路線を無乗客で走り、EV走行にかかる様々なデータを計測します。これに先駆け、2月18日(火)に、「ライトキューブ宇都宮」大ホールにて、実証実験用EVバスお披露目式を開催しました。

本実験用EVバスのデータ取得走行は、2月20日(木)から3月11日(火)まで実施します。その後、連携先である関東自動車株式会社の車庫や宇都宮大学陽東キャンパス、宇都宮市の施設に、遠隔制御可能な充電器を設置して、充電に関するデータを取得し、太陽光発電を効果的に利用する充電の実験などを進めて参ります。

本学は、研究成果の社会実装を目指した研究を、企業や地域、市民のみなさまとともに進めて参ります。

お披露目式概要

日 時:2025年2月18日(火) 15:30~16:30(受付 は15:00より)
場 所:ライトキューブ宇都宮 大ホール(栃木県宇都宮市宮みらい1-20)
出席者:早稲田大学理工学術院 教授 林 泰弘
宇都宮大学 理事・副学長(研究・評価・グローバル戦略担当) 松金 公正
宇都宮大学地域デザイン科学部 准教授 長田 哲平
宇都宮市 市長 佐藤 栄一
宇都宮市 副市長 酒井 典久
関東自動車株式会社 取締役専務執行役員 石原 玲一
内 容:関係者挨拶/記念撮影/EVバス内部見学・質疑

写真左から早大マスコットキャラ・ワセダベア、宇大マスコットキャラ・宇~太、宇大・松金氏、早大・林教授、宇都宮市・佐藤氏、関東自動車・石原氏、宇都宮市マスコットキャラ・ミヤリー

1.実証実験に至る背景と概要

世界中で地球温暖化への対策が求められる中、現在策定中の第7次エネルギー基本計画(案)でも言及されているように、日本でも太陽光発電の重要性が改めて認識されるようになりました。事業所や一般家庭への太陽光発電システムの導入が進むに従い、特に昼間、売電により家庭等から送電網に流れる逆潮流※1量が増えることで、安定した電力供給に影響が出る可能性が高まりつつあります。そのため地域によっては、太陽光発電を抑制する「出力制御」を実施したり、送配電網の制約により太陽光発電を増加させることが難しい事例が生じたりしています。太陽光発電のエネルギーを抑制せず最大限利用するためには、地域で発電した太陽光発電を、できるだけ地域内で活用することが必要であり、これによってCO2排出量の削減に貢献することが可能となります。

このため、本研究グループでは、地域共有財産である公共交通のひとつであるバスが将来電動化することを想定し、地域で発電し余剰となった太陽光発電電力をEVバスに充電して利用するための「実データを使った地域太陽光発電量の見える化」と「太陽光余剰電力量の予測手法」、「余剰電力を最大活用するEVバスの運行スケジュール手法」を開発してきました。このたび、LRTを導入するなど、公共交通を利用したCO2排出削減に意欲があり、これまでも連携してきた宇都宮市、関東自動車株式会社の協力を得て、実証実験を開始します。その一環として、実証実験用EVバスの運行を2月20日(木)から2週間の予定で行い、走行時の各種データの取得や急速充電器を介した充電を行うほか、市内各所においてEV公用車やEVタクシーを活用した実験を進めます。

なお本実証実験は、内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期「スマートエネルギーマネジメントシステムの構築/A1:エネルギーとモビリティのセクターカップリング」のうち「(個別テーマ1)公共交通と電力部門のセクターカップリングの総合技術検証」として実施するものです。


図1 研究の全体概要

(1-1)本実証実験における関係機関の役割

早稲田大学
研究開発責任者グループ、スマートメータデータの分析と見える化、EVバス電費シミュレーション手法の開発、EV充電スケジュール最適化手法の開発、EV急速充電器遠隔制御手法の開発

宇都宮大学
交通流シミュレーション手法の開発

宇都宮市
実証フィールドの提供、平石地区市民センター、清原地区市民センターへの実験用EV充放電器の設置に関する土地の貸与、EV公用車への充電(放電)による実験への協力

関東自動車株式会社
実験用充電器設置場所の貸与(西川田東車庫)とEVバス充電による実験への協力、実験用EVバスの運転協力

(1-2)実証実験の概要

早稲田大学、宇都宮大学では、宇都宮市、関東自動車株式会社の協力を得て、以下の実験を行っていきます。

  • 実験用EVバスの走行試験および各種センサによる走行データ取得
  • 関東自動車株式会社西川田東車庫への実験用EV充電器設置と、EVバスへの充電実験
  • 宇都宮大学陽東キャンパスへの実験用EV充電器設置と、EV公用車、EVタクシーへの充電実験
  • 宇都宮市 平石地区市民センター、清原地区市民センターへの実験用EV充放電器設置と、EV公用車への充電(放電)実験
(1-3)用語解説

※1.逆潮流
発電所からの電力を家庭等電力利用者に配電するための電線に、太陽光発電等で発電して自家消費しなかった余剰分が流れ込むこと。近年では、余剰電力とそれに伴う逆潮流量が増えたことにより、配電系統に流れる電力の質を維持しづらくなってきている。

※2.SOC
State Of Chargeの略で、バッテリーの充電率や充電状態を表す指標。

2.研究開発内容
(2-1)現在の課題

太陽光発電の昼間の余剰電力をEVの充電に活用することについては、住宅やビル、工場等の小さい単位で最適化する検討・研究は従来からありました。しかし、地域全体の太陽光発電の余剰を把握し、路線バスや公用車などの公共的なEV(パブリックEV)の充電に活用する、地域レベルでの脱炭素に向けた取組はありませんでした。

(2-2)今回の研究で新しく開発した技術

2023年度から活用が可能となった電力メータのデータ(スマートメータ統計データ)により宇都宮市全域における電力需要や太陽光等の発電状態を、地理メッシュ単位で把握し、予測する技術を開発しました。また、スマートメータデータの面的活用方法として、地域別・時間帯別CO2排出係数、という概念を導入し、これを算出し、各種評価に利用できるよう環境整備も並行して進めています。


図2 スマートメータ統計データ分離手法の概念図

更に、パブリックEVのダイヤ・運行データおよびACROSS電動車両研究所が有するEVのエネルギー消費シミュレータにより、路線バスがEV化された場合の消費電力や充電池残量の推定・予測する「電費予測技術」を開発しました。

これら電力、交通の異なるセクターの面的データを統合して活用する「セクターカップリング」技術により、地域における昼間の太陽光の余剰電力をパブリックEVの充電に最大限活用する充電スケジュールの策定が可能となりました。既に計算機シミュレーションにより、CO2排出量の削減効果が定量に示されており、現在、上記の技術をリアルタイムで動作させるスマートエネルギーマネジメントの検証システム構築に着手しています。

社会実装に向けては、将来シミュレータを利用するパブリックEV管理事業者が、特別な装置やセンサを導入しなくても得られる既存あるいはオープンデータを利用して実用に足るシミュレーション結果を得る必要があります。そのため、本実証実験では、「電費予測技術」に関し、実験用に各種センサを設置したEVバスの走行試験を行うことで詳細なリアルタイム走行データを取得した上で、データ粒度を下げた際のシミュレーション精度の向上を進めていく予定です。またあわせて、実機を活用したリアルタイムな実証実験を通しての課題抽出と対策立案を実施します。

(2-3)研究の波及効果や社会的影響

宇都宮市では、2050年カーボンニュートラルの実現に向け「再生可能エネルギーの地産地消の推進」や公共交通の脱炭素化を図る「ゼロカーボンムーブの構築」などに取り組んでおり、本実証実験はこれらの取組に貢献するものです。また、本開発技術は宇都宮市に限らず、どの地域・自治体においてもカスタム利用が可能です。さらに、開発技術を応用し、自家用車の充電最適化などに向けた研究への展開を進めていきます。

今後も増加が進む太陽光発電やEVを効果的に活用することで、国全体のカーボンニュートラルに寄与します。

論文情報
  1. S. Sugano, Y. Fujimoto, Y. Ihara, M. Mitsuoka, S. Tanabe, Y. Hayashi, “Quantifying spatio-temporal carbon intensity within a city using large-scale smart meter data: Unveiling the impact of behind-the-meter generation”, Applied Energy, Volume 383, 1 April 2025, 125373
  2. 富澤 勇輝、他「バスの段階的な電動化を考慮した充電スケジュール最適化によるPV地産地消能力の評価」、電気学会論文誌B、2022年、142巻 2号、67-76
0402電気応用
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