四国の森の新たな外来鳥・サンジャク~西部に広く定着、東部にも多くの生息適地~

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2024-09-27 森林総合研究所,高知大学

ポイント

  • 四国ではカラス科のサンジャクが2000年頃に観光施設から逸出
  • 四国西部でサンジャクの分布調査を実施し、西部で広く定着を確認
  • サンジャクは主に森林率が中程度の低地で分布を拡大
  • サンジャクの生息適地は未定着の四国東部にも広く分布、さらなる拡大が懸念

概要

国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所、高知大学、日本野鳥の会高知支部の研究グループは、四国西部で拡大する新たな外来鳥類・サンジャクの分布を調査し、主に森林率が中程度の低地に分布すること、生息適地は四国東部にも多く存在することを明らかにしました。

四国では近年、外来種・サンジャクの拡大が確認され、それに伴う生態系への影響が懸念されています。本研究では、サンジャクの効率的な調査方法とその分布を決める要因を調べました。その結果、サンジャクは初夏の朝に特定の鳴き声を拡声器で再生するとその応答により見つけやすくなること、森林率が中程度の低地に主に分布し、四国西部に広く定着していることが分かりました。さらに、生息適地は現在サンジャクが定着していない四国東部にも広く分布すると推定されました。また、サンジャクの生息によって在来鳥類4種の生息確率が顕著に低下しているという傾向は現段階ではみられないことも示唆されました。

サンジャクが高密度化する前に、さらなる在来種への影響評価と分布拡大の阻止に向けた効率的な捕獲方法とモニタリング体制の確立が求められます。

本研究成果は、Ornithological Science 誌で査読を経て2024年5月17日に受理されましたが、印刷中であり、出版年月日や掲載号は現段階では未定です。このプレスリリースは、2024年7月17日に公開されたプレプリントに基づきます。

背景

世界各地で様々な生物が、自然分布域の外に人為的に持ち出されて繁殖し、外来種として移入先の地域の生態系に影響を及ぼしています。しかしながら、外来鳥類が生態系に及ぼす影響の研究は十分行われてきておらず、定着から時間が経過した外来鳥類の根絶は一般に困難であることが知られています。外来鳥類の分布を決める要因を解明することで、どの程度分布を広げて生態系に影響を及ぼし得るかリスクを評価すること、そして拡大を防ぐ計画を立案することが求められます。

四国の西部の森林では、2000年頃に愛媛県の観光施設から群れで逸出したものに由来すると考えられる外来鳥類・サンジャク(写真1)の分布が拡大しており、地域の生態系への影響が懸念されています。サンジャクは中国南部から東南アジアが原産のカラス科に属する比較的大きな種です。雑食性で様々なものを食物としますが、鳥の卵や雛を食べることも知られています。サンジャクはどんな環境に定着しているのでしょうか?また、すでに在来種へ甚大な影響を及ぼしているのでしょうか?

四国の森の新たな外来鳥・サンジャク~西部に広く定着、東部にも多くの生息適地~

写真1. サンジャクの鳴き声の再生に反応して鳴きながら接近してきたサンジャク

内容

本研究ではサンジャクの分布とその決定要因、在来種への影響を調べました(図1)。野外調査では、動物の個体を見落としなく見つけることは困難です。この見落としは、定着初期や分布拡大中の外来種の分布を評価する際には大きな課題となります。本研究では、サンジャク個体の見落としを減らす工夫として、まず、調査時の発見率を上げるため、サンジャクの鳴き声を流して反応を記録するプレイバック法(図1左上)を用いて、四国西部を対象とした広域調査を実施しました。サンジャクは色々な声を発しますが、その機能は明らかになっていないため、この調査では6種類の鳴き声を調査ごとに異なる順番で再生しました。

つぎに、見落とし個体を考慮した統計モデル(占有モデル)を用いて、サンジャクを発見しやすい条件と、サンジャクの生息確率を決める要因を分析しました。このモデルと環境データから、サンジャクの潜在的な生息適地を四国全域で推定しました。さらに、複数の生物種の分布と発見しやすさを同時に扱う解析方法(多種占有モデル)を用いて、サンジャクの調査時に確認された在来の森林性鳥類4種(キビタキ、ヤマガラ、シジュウカラ、ウグイス)に対するサンジャクの存在の影響を調べました。

その結果、サンジャクは5月下旬から7月上旬の午前に調査を行うと見つけやすく、サンジャクの特定の鳴き声をスピーカーで再生するとそれに対する応答により発見率が高まることが示唆されました。サンジャクは調査した42地点のうち、13地点で確認され、その生息確率は、半径600 m圏内の森林率が中程度(森林率76%でピーク、他は主に農地)で標高が低い場所(400 m以下)で高いことが明らかになりました(図1左下)。サンジャクの逸出地点から近い場所ほど生息確率が高い傾向はみられず、サンジャクは四国西部に広く定着していることが明らかになりました。さらに、モデルを四国全域に当てはめたところ、これまでサンジャクが定着していない四国東部にも生息適地が分布することが示されました(図1右下)。また、サンジャクの生息によって在来で普通種の森林性鳥類4種の生息確率が顕著に低下しているという傾向は現時点ではみられないことも示唆されました。

本研究は、高知大学の松田洋仁氏(現 倉敷第一中学校)の卒業研究として行われ、森林性鳥類の分布の研究をしてきた森林総合研究所の研究者とサンジャクを長年調査してきた日本野鳥の会高知支部の谷岡仁氏のサポートのもとで行われました。

サンジャクの分布とその決定要因、在来種への影響を示すグラフと図

図1. 本研究の概要

外来鳥類・サンジャクを対象に、鳴き声を再生して応答を記録するプレイバック調査を行いました(左上)。この調査結果から、サンジャクがどんな環境で分布を拡大しているのか(左下)、潜在的な生息適地はどこに分布しているのか(右下)を明らかにしました。また、他の在来鳥類も併せて扱える統計モデルを用いて、サンジャクが生息している場所でこれらの在来種の生息確率が低下するのかを分析しました(右上)。

今後の展開

今回の調査では、サンジャクの存在によって在来種がいなくなるといった影響はみられませんでした。しかし、サンジャクが高密度化する前に、他の在来種の在・不在、在来種の個体数や繁殖成績、希少種の生息状況といった他の指標を用いた評価が必要です。また、四国の他地域、本州や九州への拡大を阻止するためには、本研究で生息確率が高いと予測され、あらたな地域への分布拡大の経路となりうる地域でモニタリング体制を確立するとともに、サンジャクの効果的な捕獲方法を開発することが求められます。

論文

論文名:Non-native Red-billed Blue Magpie Urocissa erythrorhyncha expanded in lowlands with moderate forest cover, with no significant impact on native common bird occupancy, in Shikoku, southern Japan(南日本の四国で外来サンジャクは森林率が中程度の低地で、在来・普通種の鳥類の占有率への有意な影響なく、拡大した)

著者名:松田洋仁(高知大学卒、現 倉敷市立倉敷第一中学校)、河村和洋(森林総合研究所)、比嘉基紀(高知大学)、佐藤重穂(森林総合研究所)、谷岡仁(日本野鳥の会高知支部)、山浦悠一(森林総合研究所)

掲載誌:Ornithological Science(印刷中、Research Squareでプレプリントとして公開)

DOI:https://www.researchsquare.com/article/rs-4746306/v1(外部サイトへリンク)

研究費:環境研究総合推進費「JPMEERF20234002」

共同研究機関

高知大学、日本野鳥の会高知支部

お問い合わせ先

研究担当者:

森林総合研究所 北海道支所 森林生物研究グループ 研究員 河村和洋

広報担当者:

森林総合研究所 企画部広報普及科広報係

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