世界の森林の炭素吸収力は過去30年維持されてきた~今後さらなる取り組みが必要:国際研究チームによる解析~

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2024-07-19 東京大学

発表のポイント
  • 国際研究チームが世界各国・地域の最新の森林データを分析し地球上の森林の炭素の動きを調べたところ、過去30年にわたり正味の炭素吸収力が維持されていたことが分かりました。
  • しかし、その内訳は大きく変化しており、炭素の吸収力は温帯林と再生された熱帯林で増加し、北方林と熱帯原生林で減少していました。
  • 今後森林の炭素吸収力を維持するには、森林減少と劣化を食い止め、森林の再生を進め、さらには木材の収穫方法など森林利用の改善を図る必要があります。

世界の森林の炭素吸収力は過去30年維持されてきた~今後さらなる取り組みが必要:国際研究チームによる解析~

発表内容

東京大学大学院農学生命科学研究科の伊藤昭彦教授と国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所橋本昌司主任研究員(兼東京大学大学院農学生命科学研究科准教授)らが参加した国際研究チーム(日本、アメリカ、イギリス、中国、フィンランド、スウェーデン、オーストラリア、ロシア、カナダ、オーストリア、インドネシア)は、世界中のデータを精査し過去30年間の地球上の森林の炭素吸収力(注1)を明らかにしました。森林生態系による炭素吸収は、地球上の炭素循環の中で最も重要な吸収源であり、気候変動の理解・予測・対策に大きな意味を持ちます。その量を求める最も直接的な方法は、各国・地域の統計や観測に基づくデータ(森林インベントリとも呼ばれます)を集めて詳細に解析するものです。最初の分析が2011年に公表され、2024年に最新データを用いたバージョンアップが行われました。
その結果、世界の森林における炭素吸収力は、1990年代と2000年代は年3.6±0.4 ギガトン(=ペタグラム)で安定しており、2010年代も3.5±0.4 ギガトンであったことがわかりました。しかし、内訳は大きく変化しており、温帯林(1990年代から2010年代で+30%)と再生された熱帯林(同+29%)では吸収力が増加していましたが、北方林(同-36%)と熱帯原生林(同-31%)では減少していました。また、他研究が示しているように、陸域の炭素吸収量の総量は増加しているため、全吸収量に占める森林の寄与は低下していることになります。さらに、森林の吸収力の3分の2程度に相当する量の炭素が熱帯林の破壊により排出されていました。これを考慮すると、世界の森林の炭素吸収力は年0.93±0.63 ギガトン(1990年代)、1.66±0.56 ギガトン(2000年代)、1.39±0.69 ギガトン(2010年代)となりました。
世界の森林の炭素吸収力は現在はかろうじて維持されているものの、森林の老齢化や、未だに続く森林破壊、激化するかく乱などのために危機に瀕していると考えられます。例えば、熱帯原生林は未だに減少と劣化が続いており、またアマゾンでは強い干ばつが頻発し、森林の炭素吸収力を低下させています。北方林を見てみると、気候変動により山火事や病虫害、干ばつによるかく乱影響が強まっています。永久凍土の融解による生態系の変化も問題となっています。温帯林では再植林や過度の森林利用からの回復がありましたが、それらの森林も老齢化を迎え、炭素吸収力が低下するステージへと近づいています。また温帯林においても気候変動によるかく乱が問題となっています。
今後森林の炭素吸収力を維持するため最も重要なことは、森林減少と劣化による炭素放出を食い止めることです。それはすでに蓄積されている森林の炭素を保全することも含みます。また植林による炭素吸収力の向上も重要です。よりインパクトの小さい収穫方法や、山火事が起こりにくい管理など、クライメートスマートな森林施業(注2)も重要です。木材製品をより長く使っていくことや、持続可能で循環型の木材利用を進めていくことも有効です。本研究は森林の炭素吸収力維持の一助となるものであり、さらに研究を進めて森林機能の理解を深めることが重要です。

発表雑誌
雑誌
Nature
題名
The enduring world forest carbon sink
著者
Yude Pan*, Richard A Birdsey, Oliver L Phillips, Richard A Houghton, Jingyun Fang, Pekka E Kauppi, Heather Keith, Werner A Kurz, Akihiko Ito, Simon L Lewis, Gert-Jan Nabuurs, Anatoly Shvidenko, Shoji Hashimoto, Bas Lerink, Dmitry Schepaschenko, Andrea Castanho, Daniel Murdiyarso *責任著者
DOI
https://doi.org/10.1038/s41586-024-07602-x
URL
https://www.nature.com/articles/s41586-024-07602-x
研究助成

本研究は、科研費「デジタルバイオスフェア:地球環境を守るための統合生物圏科学(課題番号:21H05318)」、「土壌炭素のターンオーバー速度に関する陸域モデルの改良(課題番号:21H03580)」の支援により実施されました。

用語解説

注1 森林の炭素吸収力
森林は樹木の光合成により大気中の二酸化炭素を吸収し成長する一方で、自らの呼吸で二酸化炭素を排出しています。その差し引きとして炭素を固定しています。また、樹木の一部は落葉などの形で土壌に入り、そこでもその一部が土壌に蓄積し、炭素を固定しています。土壌の炭素吸収力(固定力 は樹木による固定よりも解明されていない点が多いとされています。森林が炭素を吸収しその量が変化する原因は、大気中二酸化炭素の濃度上昇、気候変動、植林などが考えられますが、国・地域の状況によって大きく異なります。

注2 クライメートスマートな森林施業
温室効果ガスの削減へ貢献しながら、気候変動にも適応できるレジリエントな森林を目指す森林の利用方法。さらに、生物多様性など他の森林機能と調和しながら生産性の向上も持続可能的に目指します。現在欧州を中心に世界中でクライメートスマートな森林のあり方が研究されています。

問い合わせ先

(研究内容については発表者にお問合せください)
東京大学 大学院農学生命科学研究科 教授
伊藤 昭彦(いとう あきひこ)

国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所 主任研究員
兼務東京大学 大学院農学生命科学研究科 准教授
橋本 昌司(はしもと しょうじ)

東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部
事務部 総務課総務チーム 総務・広報情報担当(広報情報担当)

国立研究開発法人森林研究・整備機構
森林総合研究所 広報普及科広報係

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