ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡、133億光年かなたの星団を捉える

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2024-07-04 早稲田大学

発表のポイント
  • ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を用いて、133億光年かなたの銀河の中にこれまでで最遠方の星団を発見しました。
  • 発見された星団は天の川銀河の球状星団より質量が大きく、恒星の数密度が非常に高いことが分かりました。この発見により、初期宇宙の若い銀河で球状星団がどのように誕生したのかを解明する大きな一歩になると期待されます。
  • 銀河の進化にとって重要な大質量星や、ブラックホールの種の形成についても新たな視点をもたらす可能性があります。
概要

早稲田大学、千葉大学、名古屋大学、筑波大学などの天文学者の国際チームは、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を用いて、宇宙年齢4億6千万年の時代の星団を発見しました。これまでで最遠方の星団の発見です。

本研究成果は、イギリスの科学誌『Nature』に、2024年6月24日(現地時間)に電子版に掲載されました(論文名:Bound star clusters observed in a lensed galaxy 460 Myr after the Big Bang)。

図1.今回発見された星団
Credit: ESA/Webb, NASA & CSA, L. Bradley (STScI), A. Adamo (Stockholm University) and the Cosmic Spring collaboration

研究の概要

私たちの天の川銀河には、球状星団と呼ばれる、何十億年もの間、自らの重力で集団を保ちながら生き延びてきた星団があります。球状星団は、宇宙初期に生まれた、いわば化石のような天体であると考えられていますが、いつどこで形成されたのかは、未だよくわかっていませんでした。

今回、早稲田大学、千葉大学、名古屋大学、筑波大学などの天文学者の国際チームは、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡※1を用いて、宇宙年齢4億6千万年の時代の銀河であるSPT0615-JD1、別名コズミック・ジェムズ・アーク(Cosmic Gems arc; 宇宙宝石の円弧)の中に、5つの極めてコンパクトな星団※2を発見し、それらが球状星団の祖先である可能性を突き止めました。

研究成果の意義

今回の論文の筆頭著者であるスウェーデンのストックホルム大学とオスカー・クライン・センターのアンジェラ・アダモ博士は、「コズミック・ジェムズ・アークのコンパクトな星団は、球状星団の祖先であると考えられます。何より特別な点は、重力レンズ効果※3のおかげで、この銀河を数光年のスケールで解像できたことです!」と成果を強調しています。今回の観測対象の銀河は、SPT-CL J0615-5746という前景の銀河団による重力レンズ効果により、長辺がおよそ100倍に拡大されて観測されました。「今回のジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の画像を初めて見たときは驚愕しました。小さな輝点の連鎖が、鏡に映したように対称に並んでいたのです。これらの小さな輝点は星団だったのです。ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡がなければ、このような若い銀河の星団を見つけることはできなかったでしょう!」 とアダモ博士は付け加えています。

今回の観測プログラムの代表者である、米国宇宙望遠鏡科学研究所のラリー・ブラッドリー博士は、「ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の驚異的な感度と解像度が、巨大な前景銀河団による重力レンズ効果と相まって、この発見を可能にしました。」と説明しています。

コズミック・ジェムズ・アークのコンパクトな星団は、天の川銀河の球状星団より質量が大きく、恒星の数密度が非常に高いことが分かりました。今回の発見は、初期宇宙の若い銀河で球状星団がどのように誕生したのかを解明する大きな一歩になると期待されます。アダモ博士は、「球状星団の形成過程や初期の性質を解き明かす重要な手掛かりになる成果です。例えば、コズミック・ジェムズ・アークの星団を構成する星々は非常に高い密度で密集しています。これは、星団の内部で起こっている何らかの物理過程を示唆するものであり、銀河の進化にとって重要な大質量星や、ブラックホールの種の形成について新たな視点を与えるでしょう。」と説明しています。すなわち、初期宇宙に存在する超大質量ブラックホールの起源などを説明するために、高密度な星団中でブラックホールの合体頻度が高まることで、より大質量なブラックホールが誕生する仮説や、恒星同士の合体が暴走的に起こることで超大質量な恒星が誕生する仮説などが理論的に提案されてきましたが、今回発見された高密度な星団は、まさにその舞台となる可能性を秘めているのです。

研究チームの一員である早稲田大学の井上昭雄教授は、「今回の成果は、球状星団の起源に迫ることに加えて、宇宙の夜明けとも称される宇宙再電離※4の解明についても大きなヒントを与えるという、重要な意義があります。」とコメントしています。

用語解説

※1:ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡
米国NASAが2021年12月25日に打ち上げた、主鏡口径6.5mの巨大な宇宙望遠鏡。わずか2年の間に 初期宇宙の銀河の観測で革新的な成果を数多く挙げています。今回の成果もその一つとなります。

※2:星団
恒星の集まり。特に、恒星同士の重力で集団を保つ星団を自己重力星団と言います。今回見つかった5つの星団は自己重力星団であることが分かりました。

※3:重力レンズ効果
重力場の作用で光の進路が曲げられる現象で、一般相対性理論で説明されるものです。銀河の集団である銀河団の巨大な重力により、背景にある遠方の銀河からの光線が曲げられた結果、本来は地球の方向に進んでいなかった光も地球に向かうようになり、銀河が拡大されて明るく見えたり、複数の像に分裂して見えたりします。

※4:宇宙再電離
ビッグバン直後の宇宙では高温のためガスは電離状態にありましたが、宇宙膨張とともに温度が下がり、いったん中性化しました。引き続く初代天体や銀河の形成により、強烈な紫外線が放射され、宇宙年齢10億年頃までにガスは再び電離しました。これを宇宙再電離と呼びます。今回発見された星団は、宇宙再電離を引き起こした紫外線源である可能性もあります。

論文情報

雑誌名: Nature
論文名:Bound star clusters observed in a lensed galaxy 460 Myr after the Big Bang
執筆者名: Angela Adamo, Larry D. Bradley, Erox Vanzella, Adélaïde Claeyssens, Brian Welch, Jose D. Diego, Guillaume Mahler, Masamune Oguri, Keren Sharon, Abdurro’uf, Tiger Yu-Yang Hsiao, Xinfeng Xu, Matteo Messa, Augusto E. Lassen, Erik Zackrisson, Gabriel Brammer, Dan Coe, Vasily Kokorev, Massimo Ricotti, Adi Zitrin, Seiji Fujimoto, Akio Inoue, Tom Resseguier, Jane R. Rigby, Yolanda Jiménez-Teja, Rogier A. Windhorst, Takuya Hashimoto, Yoichi Tamura
掲載日(現地時間):2024年6月24日
掲載URL: https://www.nature.com/articles/s41586-024-07703-7
DOI https://doi.org/10.1038/s41586-024-07703-7

研究助成

研究費名: 日本学術振興会科学研究費助成事業
研究課題名: 超遠方銀河紫外線光度関数のBright-end excess問題を解決する理論および観測研究
研究代表者名(所属機関名):井上昭雄(早稲田大学)

研究費名: 日本学術振興会科学研究費助成事業
研究課題名: 遠赤外線微細構造輝線で切り拓く前・宇宙再電離期の銀河形成
研究代表者名(所属機関名): 田村陽一(名古屋大学)

研究費名: 日本学術振興会科学研究費助成事業
研究課題名: 超伝導工学・大規模数値計算・データ科学で解明する宇宙最初期の重元素生成過程
研究代表者名(所属機関名): 河野孝太郎(東京大学)

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