酸化物ヘテロ界面における創発磁場伝播の観測に成功~創発磁気輸送現象の高機能化に道筋~

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2024-03-14 東京大学

発表のポイント

◆ 典型的な幾何学的フラストレート磁性体であるパイロクロア型酸化物のヘテロ界面において、非共面的な磁気構造によって生じる創発磁場が伝播し、トポロジカルホール効果と呼ばれる創発磁気輸送現象を生じさせることを観測しました。
◆ 今回の観測で創発磁気輸送現象が、磁性と電気伝導性が機能分離されたヘテロ界面でも生じることが明らかになりました。
◆ 従来の研究対象では不可能であった、創発磁気輸送現象の高機能化への展開が期待されます。

fig01
ヘテロ界面におけるトポロジカルホール効果の模式図

概要

東京大学大学院工学系研究科の大野瑞貴大学院生、藤田貴啓助教、川﨑雅司教授は、非共面的な磁気構造によって生じる「創発磁場」(注1)が、非磁性金属と磁性絶縁体のヘテロ界面において伝播し、「トポロジカルホール効果」(注2)という創発磁気輸送現象(注1)を引き起こすことを初めて観測しました。

本研究では、四面体を基調とした特徴的な結晶構造を有するパイロクロア型酸化物(注3)に着目し、パルスレーザー堆積法(注4)を用いることで高品質なヘテロ接合(注5)試料の作製に成功しました。今回の発見によって、磁性と電気伝導性が機能分離されたヘテロ界面でも創発磁気輸送現象が実現可能であることが明らかにされました。これにより研究対象となる材料選択の幅を拡大することが可能となり、創発磁気輸送現象の理解が深まると共に、それを応用したエレクトロニクス素子の省電力化や高機能化に貢献することが期待されます。

発表内容

【研究背景】
近年の情報社会の急速な発展は、情報量とそれを処理するための消費電力の爆発的な増大という、新たな社会的課題を生じさせており、低消費電力・高速情報処理が実現可能なエレクトロニクス素子の実現が切望されています。昨今の物性物理学の進展から急速に理解が進む「創発磁気輸送現象」は、エネルギーを消費しない非散逸的な特性を持つことから、これらの要件を満たす次世代素子への応用が期待されています。

とりわけ特異な磁気構造を持つ磁性体では、仮想的な磁場である「創発磁場」が伝導電子に作用することで、創発磁気輸送現象を誘起することが知られています。一方で従来の研究対象は金属磁性体に集中し、特異な磁気構造と電気伝導性を単一の物質中に両立しなければならないため、材料選択の幅を狭めていました。

【研究内容】
本研究では、磁性絶縁体Dy2Ti2O7と、非磁性金属Bi2Rh2O7という、2種類のパイロクロア型酸化物(図1(a))のヘテロ界面に着目しました。Dy2Ti2O7は典型的な幾何学的フラストレート磁性体(注6)の一種であり、「スピンアイス」という基底状態を持ちます。この時、Dy原子の形成する正四面体の各頂点に存在する4個のスピンの内、2個が外向き、2個が内向きという、「2-in/2-out」配置を取ります。ここに正四面体の頂点と重心を結ぶ[111]方向に磁場を印加することで、1つのスピンが反転した「3-in/1-out」配置へと磁気転移します(図1(d))。これらのスピン構造は両方共に、非共面と呼ばれる特異なものであるため、創発磁場を生じさせます(図1(c))。この磁気転移の前後において、外部から印加した磁場と創発磁場との相対方向が反転することから、創発磁場によるホール効果であるトポロジカルホール効果も、磁気転移の前後で符号反転を示すと期待されます。

fig02
図1:パイロクロア型酸化物における「創発磁場」と「トポロジカルホール効果」
(a)パイロクロア型酸化物A2B2O7の結晶構造と、(b)A、Bサイト原子に着目した副格子。(c)三角格子上の「非共面スピン構造」により生じる「創発磁場(bem)」。3つのスピンの作る立体角に比例した創発磁場が生じる。(d)Dy2Ti2O7中のDyスピンの基底状態である「2-in/2-out」配置および、[111]方向の強磁場下における「3-in/1-out」配置。(e)2 Kから10 Kにおける異常ホール抵抗率の[111]方向磁場依存性。磁場を強くしていくと(d)に示した磁気転移が誘起され、ピーク構造とそれに続く符号変化が生じる。


実際にBi2Rh2O7とDy2Ti2O7を積層したヘテロ接合試料に対して、電気磁気輸送測定を行ったところ、磁気転移によって創発磁場の符号が反転するのに対応した、トポロジカルホール効果を観測することに成功しました(図1(e))。磁気転移の起こらない方向に磁場を印加すると、トポロジカルホール効果の符号反転が消失したことからも、Dy2Ti2O7の非共面スピン構造から生じる創発磁場による効果であることが確認されました。

【今後の展望】
機能分離されたヘテロ界面では、磁性と電気伝導性を独立に制御可能であるため、従来の材料系では不可能な創発磁気輸送現象の高機能化が期待されます。本研究対象であるパイロクロア型酸化物をはじめとして、フラストレート量子磁性体の多くは、特異な磁気構造を示すものの絶縁体であるため、これまで創発磁気輸送現象の研究対象となり得ませんでした。本研究で初めて観測された「界面創発磁気輸送現象」は、そうした材料系の磁気構造や磁気転移を電気的に検出するためのプローブとしての応用も期待できます。

発表者・研究者等情報

東京大学大学院工学系研究科
大野 瑞貴 博士課程・日本学術振興会特別研究員
藤田 貴啓 助教
川﨑 雅司 教授
兼:理化学研究所 創発物性科学研究センター 副センター長

論文情報

雑誌名:Science Advances
題 名:Proximity effect of emergent field from spin ice in an oxide heterostructure
著者名:Mizuki Ohno*, Takahiro C. Fujita*, Masashi Kawasaki
DOI:10.1126/sciadv.adk6308
URL:https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adk6308

研究助成

本研究は、科研費「基盤研究S(課題番号:JP22H04958)」、「若手研究(課題番号:JP20K15168)」、「日本学術振興会特別研究員DC2(課題番号:JP22J12905)」、公益財団法人三菱財団、公益財団法人村田学術振興財団、みずほ学術振興財団、公益財団法人池谷科学技術振興財団、公益財団法人大倉和親記念財団、公益財団法人矢崎科学技術振興記念財団の支援により実施されました。

用語解説

(注1)創発磁場、創発磁気輸送現象
磁場中を運動する電子によって引き起こされる物理現象を磁気輸送現象といい、一般的に外部から磁場を印加する必要があります。しかし、特異な磁気構造を持つ物質中を運動する場合、電子はその磁気構造と相互作用することで、外部磁場を印加せずとも、あたかも磁場が存在するように振る舞うことから、その仮想的な磁場を創発磁場と呼びます。創発磁場によって引き起こされる磁気輸送現象は、創発磁気輸送現象と総称されます。

(注2)トポロジカルホール効果
創発磁場によるホール効果を指します。一般的なホール効果は外部磁場によるローレンツ力で電子の軌道が曲がることで生じますが、創発磁場も電子の軌道を曲げ、実効的なホール効果を生じます。

(注3)パイロクロア型酸化物
A2B2O7の組成式で表される、代表的な複酸化物の1種です。ABサイトの原子に着目すると、それぞれ正四面体の3次元的なネットワーク構造を持つような特徴的な結晶構造を有します。

(注4)パルスレーザー堆積法
真空容器中に設置した焼結体などの固体ターゲットの表面に、紫外線パルスレーザーを照射してターゲット表面を瞬時に蒸発・気化(アブレーション)し、対向する基板上に堆積することで薄膜を得る手法です。ターゲットを切り替えることで容易に成膜材料を変更できる特徴があり、主に酸化物の薄膜成長に用いられてきた手法です。

(注5)ヘテロ接合
異なる2種類の材料を薄膜作製技術によって接合することをヘテロ接合といい、それらの材料間の境目をヘテロ界面と呼びます。ヘテロ界面では、ヘテロ接合を構成するそれぞれの材料とは全く異なった性質を発現することがあり、基礎・応用物理の両面で幅広く研究対象にされています。

(注6)幾何学的フラストレート磁性体
磁性スピン間の局所的な相互作用エネルギーが最小となる配置を、系全体で同時に満足できない状況をフラストレーションと呼びます。特に、フラストレーションが結晶構造の幾何学的な制約条件によって生じているような磁性体を、幾何学的フラストレート磁性体と総称します。

プレスリリース本文:PDFファイル
Science Advances:https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adk6308

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