2024-01-10 九州⼤学
ポイント
- スピンの性質を積極的に活⽤したデバイスが次世代エレクトロニクスとして注⽬されている。それらのデバイスに⾰新をもたらす材料として⼆次元層状物質が期待を集めている。
- 室温で⾼い垂直磁気異⽅性を持つ⼆次元層状強磁性体 Fe₃GaTe₂ のデバイス化に成功。世界で初めて同物質の磁気熱電効果を評価し、⾼い熱起電⼒を発⽣することを実証。
- ⼆次元層状物質の優れたフレキシブル特性と熱変換特性、更に本デバイスの極めてシンプルな構造により、様々な環境下で利⽤可能な発電装置としての実⽤化が期待。
概要
グラフェンに代表される⼆次元層状物質*1 は、⾼伝導性、柔軟性、透明性など様々な魅⼒的な性質を有しているため、多彩なアプリケーションが提案されており、とくに、次世代エレクトロニクスの新材料として⼤きな注⽬を集めています。近年、強磁性を⽰す⼆次元物質も発⾒され、⼆次元磁⽯という名のもと、磁気記録やスピントロニクス*2 への応⽤も期待されています。しかしながら、室温でも磁⽯の特性を維持する⼆次元物質は極めて少なく、その磁気的特性も⼗分明らかになっていませんでした。
本研究では、最近、室温⼆次元磁⽯の性質を持つことが明らかになった Fe₃GaTe₂ の熱電特性*3 を詳細に評価し、この⼆次元磁⽯が優れた横型熱電特性を有することを世界で初めて明らかにしました。
九州⼤学⼤学院 理学府 修⼠2年 劉書含、理学研究院 崔暁敏 博⼠、同 胡少杰 博⼠、同 ⽊村崇 教授らの研究グループは、絶縁基板上に転写された Fe₃GaTe₂薄膜に複数の微細電極を取り付け、磁場中での磁気輸送特性、及び熱電特性を精密に評価しました。その結果、 Fe₃GaTe₂薄膜の磁⽯の向きが無磁場下で⼆次元平⾯に垂直⽅向に揃っていることを⽰し、更に、この物質に温度勾配を加えると、特殊な熱電効果とスピン軌道相互作⽤により、磁⽯の向きと温度勾配の両⽅に垂直な⽅向に⼤きな起電⼒が発⽣することを明らかにしました。
本成果は、⼆次元磁⽯の熱電変換材料としての⼤きな応⽤可能性を⽰した結果であり、熱エネルギーを有効な電気エネルギーに容易に変換できる技術のため、⼆次元物質の優れた柔軟性も考慮することで、様々な環境下での応⽤が期待できます。
本成果は、2023年12⽉31⽇(現地時間)にドイツの科学誌Advanced Materials のオンライン版に掲載されました。
⼆次元磁⽯による⾼効率熱電変換の概念図。温度勾配に より電⼦がスピンの向きに応じて運動し、横⽅向起電⼒に変換 される。
研究者からひとこと
新技術デバイスのイノベーションには、新物質の発⾒が必要不可⽋です。Fe₃GaTe₂ は、2022年に中国で発⾒された⼆次元磁⽯です。今回、この物質が熱電デバイスやスピンデバイスにおいても、機能性材料として優れた性能を有していることが⽰されました。アジアの研究⼒を結集させることで、⼈類の発展に貢献する技術が確⽴されることを願います。
⼆次元磁⽯Fe3GaTe2 の結晶構造とスピン依存ゼーベック効果および異常ネルンスト効果の概念図
用語解説
(※1) ⼆次元層状物質
厚さが単原⼦、または単分⼦レベルの⼆次元層内のみで、物質の性質を司る強い原⼦間結合が形成された単原⼦、または単分⼦層物質において、隣接する⼆次元層が弱いファンデルワールス⼒のみで結合している物質を⼆次元層状物質、または⼆次元物質と呼んでいます。
(※2) スピントロニクス
電⼦が持つスピン⾓運動量の性質(強磁性、不揮発性、スピン依存伝導など)を積極的に⽤いて、低消費電⼒なエレクトロニクスを実現を⽬指す研究分野で、巨⼤磁気抵抗効果やトンネル磁気抵抗効果、スピン⾓運動量移⾏効果やスピンホール効果等を基軸にして構成されたスピン注⼊メモリなどが代表的なデバイスです。
(※3) 熱電特性
主に固体を⽤いて、熱エネルギーを電気エネルギーに変換、または、その逆変換する技術を熱電変換といい、それに関する特性を熱電特性といいます。代表的な熱電効果として、温度差から起電⼒を発⽣するゼーベック効果や電流から熱を発⽣するペルチェ効果が知られていますが、磁⽯では、スピンの向きに応じてゼーベック効果の⼤きさや符号が異なるスピン依存ゼーベック効果が現われ、更にスピン軌道相互作⽤が⼤きい物質中では、温度差と磁⽯の両⽅の向きに起電⼒が⽣じる異常ネルンスト効果が発現します。異常ネルンスト効果は、⼀種の横⽅向ゼーベック効果であるため、横型熱電変換とも⾔われています。
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論文情報
掲載誌:Advanced Materials, 2023, 2309776.
タイトル:Efficient Thermo-Spin Conversion in van der Waals Ferromagnet FeGaTe
著者名:Shuhan Liu, , Shaojie Hu, Xiaomin Cui, Takashi Kimura
D O I : 10.1002/adma.202309776
研究に関するお問い合わせ先
理学研究院 ⽊村 崇 教授