2023-07-10 統計数理研究所
静岡県立大学グローバル地域センター自然災害研究部門の楠城一嘉特任教授、東京大学地震研究所の行竹洋平准教授、統計数理研究所の熊澤貴雄特任准教授の研究グループは、富士山直下で起きる地震のデータ処理に基づきマグマ活動を監視する新手法を開発しました。富士山の観測体制拡充に貢献できる点で、火山防災上、重要な研究です。この成果は2023年6月30日(日本時間)に英科学誌Scientific Reports (サイエンティフィック・レポーツ)の電子版へ掲載されました。
【概要】
論文 Activated volcanism of Mount Fuji by the 2011 Japanese large earthquakes
著者
静岡県立大学グローバル地域センター自然災害研究部門 特任教授 楠城一嘉
東京大学地震研究所 准教授 行竹洋平
情報・システム研究機構 統計数理研究所 特任准教授 熊澤貴雄
掲載誌
Scientific Reports (サイエンティフィック・レポーツ), 第13巻, ページ番号10562
https://doi.org/10.1038/s41598-023-37735-4
研究のポイント
- 富士山深部のマグマ活動と関係が指摘されている低周波地震を研究した。低周波地震は通常の地震に比べ、ゆっくりとした揺れを生じる地震である。また、富士山で起きる低周波地震の規模は非常に小さいため、観測された揺れのデータに含まれるノイズに埋没して地震動と認識されない低周波地震がある。
- 雑音の中から地震動を検知するマッチドフィルタ法を導入した。2003年1月〜2019年7月に富士山周辺の16観測点で記録した揺れのデータの中から、気象庁が観測した低周波地震の波形と調和する波形をデータ処理で抽出した。雑音に混じるなど、気象庁が観測していない低周波地震も拾うことができた。低周波地震を約6,000回検知し、気象庁の観測回数の約3倍であった。
- 2011年3月11日東北沖地震(M9.0)の4日後に富士山麓で発生した静岡東部の地震(M6.4)の後、低周波地震は静穏と気象庁から報告され(参考1)、富士山噴火の危惧は払拭されていたが、本研究で低周波地震が起きていたことが判明した。
- 地震活動を予測・評価するETASモデルを低周波地震に用いた結果、静岡東部の地震により活動が活発化したことを見出した。また、活動レベルは静岡東部の地震前のレベルに戻っておらず、富士山のマグマシステムが変化したことが示唆された。
- 本研究は、低周波地震の活発化は静岡東部の地震でマグマ溜まり周辺の岩盤に亀裂が生じマグマが入り込んだためと推測した。富士山周辺の地殻変動観測(GNSSや傾斜計)で捉えていないマグマシステムの微弱なシグナルを観測したのが本研究である。
著者達からのコメント
- 静岡東部の地震といった外部からの刺激に富士山のマグマシステムは敏感に反応するようになっており、今後も外部からの刺激に対しマグマ活動が変化する可能性があります。そういう変化を見逃さず丁寧に富士山を監視するために、本技術をリアルタイムで運用する仕組みの開発が必要と考えています。新しい観測所の設置や高価な観測機器の購入を必要としないので、予算が限られている富士山の火山観測・研究にとって強みになります。
- 最後の富士山噴火は約300年前の江戸時代、1707年の宝永噴火です。一方、5,600年前から今までに噴火した回数は180回を超えていて、平均で30年に1回噴火していたことが分かっており、その10倍の期間休んでいるという指摘があります(参考2)。いつ火山噴火が起きても対応できる様に、改めて、防災への備えを再点検し、防災意識が高まるきっかけとなる記事になれば良いと思います。
参考
https://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/kaisetsu/CCPVE/Report/108/kaiho_108_13.pdf
https://www.nhk.or.jp/ashitanavi/article/2791.html
お問い合わせ先
【研究内容について】
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 統計数理研究所
リスク解析戦略研究センター 特任准教授
熊澤 貴雄 (くまざわ たかお)
【報道・広報について】
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 統計数理研究所
運営企画本部企画室 URAステーション