2023-03-22 物質・材料研究機構
NIMSとクイーンズランド大学からなる研究チームは、粘土だけで、加温にも触媒 (希少金属を含むことが多い) にも頼らずに室温近傍で化学反応を加速できることを見出しました。
概要
- 国立研究開発法人物質・材料研究機構とクイーンズランド大学からなる研究チームは、粘土だけで、加温にも触媒 (希少金属を含むことが多い) にも頼らずに室温近傍で化学反応を加速できることを見出しました。これはエネルギーも希少金属も必要とせずに反応加速する、新しい手段の提案であると言えます。
- 化学反応を加速するためには通常、反応系の温度や反応物質の濃度を上げます。または触媒 (活性化エネルギー (反応に必要なエネルギー) を低くする物質) の導入で反応を加速できる場合があります。しかし、物質の安定性などの問題で温度を上げられない、溶解度が低いなどの理由で濃度を上げられない、触媒となるものが見つかっていない反応も数多く、その様な反応を効果的に加速する方法は知られていませんでした。
- 本研究では、赤血球のヘモグロビンの活性中心に似た環状有機色素分子ポルフィリン (POR) を粘土表面に吸着させることで、PORが亜鉛イオンを取り込む反応を23倍に加速することに成功しました。この反応速度定数 (反応物が増減する速さを表す量、k) の温度依存性 (直線の傾き) から、粘土の有無で活性化エネルギーはほとんど変わらず、粘土に触媒としての機能はないことがわかります。一方で、PORと金属イオンの衝突頻度の尺度 (頻度因子) が3桁程度増える事を明らかにしました。種々の分光測定の結果、粘土の表面 (負に帯電) に吸着したPORの外側 (粘土の反対側) で電子密度 (負電荷) が増大することが判りました。POR分子表面の負電荷の増大が、静電的な相互作用により金属イオン (陽イオン) との衝突を効率よく起こすことで反応の加速につながったと考えられます。
- 粘土は地球上に遍在する、環境負荷の低い材料です。この材料の新しい活用法を見出しました。今後、より難易度の高い化学反応、より需要の高い化学反応をこの方法で加速する方法を最適化します。さらに、粘土以外の表面を利用して同様の効果を観察することを目指します。
- 本研究は 、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進機構(ERATO)「山内物質空間テクトニクスプロジェクト」の一環として行われました。
- 本研究成果は、Small誌にonline掲載されました。
プレスリリース中の図 :上 : PORが亜鉛イオンを取り込む反応、下 : PORが亜鉛イオンを取り込む反応の速度定数 (k) の温度依存性。傾きから活性化エネルギー、縦軸切片から頻度因子の情報が得られます。
掲載論文
題目 : Extraordinary Acceleration of an Electrophilic Reaction Driven by the Polar Surface of 2D Aluminosilicate Nanosheets
著者 : Nagy Torad, Yuta Tsuji, Azhar Alowasheeir, Masako Momotake, Kazuki Okazawa, Kazunari Yoshizawa, Michio Matsumoto, Masafumi Yamato, Yusuke Yamauchi and Miharu Eguchi
雑誌 : Small
掲載日時 : 日本時間2023年1月9日
DOI :10.1002/smll.202205857