海水養殖に適したマス類の育種が可能に
2018-10-12 国立研究開発法人 水産研究・教育機構
●海水飼育したサツキマスを淡水へ移行し、親魚まで育て、採卵することに成功しました。さらに、得られた受精卵から仔稚魚を飼育し、再び親まで育てる取り組みを開始しました。
●閉鎖循環システムを利用することで、飼育水の使用量を大幅に削減することが可能となり、また、海水から淡水への馴致作業が大幅に省力化されました。
●この飼育システムは海水または淡水を豊富に利用できない場所でもサツキマスを親魚に育て採卵することが可能なので、養殖に適した品種の開発などの可能性が広がります。
近年、日本各地でニジマス等のマス類の海面養殖が、水温の低い冬期を中心に盛んにおこなわれています。この養殖では、種苗を淡水から、成長の良い海水へ移して育てるため、海水への適応能力が高い養殖用種苗の安定供給が強く望まれています。この課題を解決するためには、海水移行後の生き残りが良い魚を、再び淡水に戻して成熟・産卵させるというサイクルを繰り返す選抜育種を行う必要があります。さらに養殖用の種苗としては、海水中での成長が良いものを選抜することも重要です。しかし、海水で飼育したマス類を淡水域へ持ち込むと、魚体を介して海域由来の感染症を淡水域へ持ち込む懸念があることから、海水適応能力の向上を目的とした選抜育種の障壁となってきました。
そのような中、水産研究・教育機構瀬戸内海区水産研究所では、海水生活を経験するマス類の実験モデルとして、中部日本以西に生息するアマゴの降海型であるサツキマス(Oncorhynchus masou ishikawae)を対象に、2017年 5月から閉鎖循環システムを用いた親魚養成および種苗生産試験を試みました。試験では、冬期に海水飼育したサツキマスを、5月に閉鎖循環システム水槽へ移送して、海水から淡水環境へと馴致し、淡水での飼育を継続しました。約半年を経た10 月には、成熟魚から人工授精により受精卵を得ることができ、2018年 1月から孵化した種苗の飼育を開始しました。
この飼育方法では、海水で飼育されたマス類を淡水域のふ化場等へ移動させる必要がないので、海水由来の疾病を淡水域へ持ち込む心配がありません。今回の技術によって、マス類の育種研究が進められ、海水での養殖に適した品種の作出や種苗の安定供給への寄与が期待されます
本件照会先:
国立研究開発法人 水産研究・教育機構
瀬戸内海区水産研究所 資源生産部
今井 智
瀬戸内海区水産研究所 資源生産部
﨑山 一孝