2024-11-14 物質・材料研究機構,東京大学,科学技術振興機構
NIMSと東京大学からなる研究チームは、磁性金属と半導体を交互に多数積層・接合し、斜めに切断した複合材料において、磁性材料特有の“横型”熱電効果を従来よりもはるかに高い性能で利用できることを提案・実証しました。
概要
- NIMSと東京大学からなる研究チームは、磁性金属と半導体を交互に多数積層・接合し、斜めに切断した複合材料において、磁性材料特有の“横型”熱電効果を従来よりもはるかに高い性能で利用できることを提案・実証しました。
- 磁性材料の磁化と垂直な方向に温度差を付けた際に、磁化と熱の流れの両者に直交した方向に電流が生成される現象「異常ネルンスト効果」は、汎用性や耐久性が高く低コストの熱電変換を可能にする駆動原理として注目を集めています。現在、異常ネルンスト効果のさらなる性能の向上を目指し、物質の特殊な電子構造に着目した新しい磁性材料探索が活発に取り組まれていますが、2018年に報告されたコバルト基トポロジカル磁性体の性能を超える物質は室温下では報告されておらず、異常ネルンスト効果の性能の向上は頭打ちの状況になっています。加えて、この現最高性能ですら実用レベルには達しておらず、性能指数を100倍以上向上させる必要があります。
- 今回、研究チームは、磁性金属と半導体から構成される人工傾斜型多層積層体(下図)を作製し、磁場や磁性には依らず、その傾斜構造由来で発現する横型熱電効果「非対角ゼーベック効果」を異常ネルンスト効果と同時に発現させ、2つの現象の相乗効果によって、同じ磁性材料を単体で用いたときよりも1桁以上大きい性能指数で異常ネルンスト効果を利用できることを実証しました。この相乗作用は、異常ネルンスト効果自体の性能に加え、組み合わせる非対角ゼーベック効果の性能にも依存して増大します。これは、これまでの異常ネルンスト効果の研究では注目されていなかった物性値や複合材料構造といった要素が横型熱電変換の性能向上に重要であることを示すものです。
- 今回の成果は、従来の磁性材料における熱電効果の研究とは全く異なる着眼点によって、異常ネルンスト効果の新たな利用法と共に、構造デザインに立脚した新たな熱電変換材料の設計指針を提供するものです。本指針に基づきさらに高い熱電性能を示す複合材料を開発することで、排熱を利用した発電技術や電子冷却技術、熱センシング技術などへの応用展開を目指していきます。
- 本研究は、NIMS磁性・スピントロニクス材料研究センターの平井 孝昌研究員、安藤 冬希特別研究員、世伯理 那仁グループリーダー、内田 健一上席グループリーダー(兼 東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授)によって、JST戦略的創造研究推進事業ERATO「内田磁性熱動体プロジェクト」(研究総括:内田健一、課題番号:JPMJER2201)の一環として行われました。
- 本研究成果は、日本時間2024年11月14日19時にNature Communications誌にオンライン掲載されます。
プレスリリースの図: 今回開発した横型熱電複合材料の模式図
掲載論文
題目 : Hybridizing anomalous Nernst effect in artificially tilted multilayer based on magnetic topological material
著者 : Takamasa Hirai, Fuyuki Ando, Hossein Sepehri-Amin, Ken-ichi Uchida
雑誌 : Nature Communications
掲載日時 : 2024年11月14日
DOI : 10.1038/s41467-024-53723-2