「令和6年能登半島地震」に関する「地震調査委員長見解」

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2025-01-15 地震調査研究推進本部地震調査委員会

「令和6年能登半島地震」に関する「地震調査委員長見解」

2020 年 12 月から 4 年以上にわたって活発な地震活動が継続している「令和6年能登半島地震(*1)」の地震活動や地殻変動について、2024 年 1 月 1 日に発生した M7.6 の地震から約 1 年が経過したことから、関係行政機関、大学等による調査観測結果やこれまでの研究成果を整理・分析し、本日(令和7年1月 15 日)の地震調査委員会で総合的に議論しました。

石川県能登地方では、2020 年 12 月から地震活動が活発になっており、活動当初は比較的規模の小さな地震が継続する中、2022 年6月に M5.4 の地震(最大震度6弱)、 2023 年5月に M6.5 の地震(最大震度6強)などの規模の大きな地震が発生し、2024 年1月には、一連の活動の中で最大規模の地震である M7.6 の地震(最大震度7)が発生しました。2023 年 12 月までの地震活動の範囲は能登半島北東部の概ね 30 ㎞四方の範囲でしたが、M7.6 の地震の直後からの地震活動は非常に活発になり、北東-南西に延びる 150 ㎞程度の範囲に広がりました。その後、M7.6 の地震の地震活動域では、時間の経過とともに活動が徐々に低下してきていますが、そのような中で 2024 年 6 月に M6.0 の地震(最大震度5強)、11 月に M6.6 の地震(最大震度5弱)が発生するなど、引き続き規模の大きな地震が発生しています。今回の地震活動のように、数年にわたって続く上に、M7.6 の地震に加えて M6.6、M6.5 のような M6クラスの規模の大きな地震が何度も発生するような陸・沿岸域の地震活動は、日本ではこれまでに観測されたことはありません。

これまでに経験したことのない事象に直面し、地震活動がいつまで続くのかなど今後の活動を見通すことは難しい状況です。能登半島周辺には海域活断層が数多く存在するなど規模の大きな地震が今後も発生する可能性が依然としてあることから、地震調査委員会としての情報発信をより強化する必要があると考えます。これまでに取り組んできた地震活動の評価に加え、「地震調査委員長見解」として、関連する情報を発信することとしました。

[これまでの観測データ及び解析結果等について]
地震活動は一般的に、規模の大きな地震の発生後にそれより規模の小さな地震が続く活動(本震-余震型)と、同規模の地震がある期間に比較的狭い地域で継続する活動(群発的な地震活動)があります。前者は、最初の規模の大きな地震(本震)の直接の影響によりその後に地震活動が活発になり、時間の経過とともに徐々に低下していきますが、「平成 23 年(2011 年)東北地方太平洋沖地震」のように 10 年以上経過しても地震活動が継続している場合もあります。一方、後者は、マグマやその他の流体などの物質の移動などにより地震活動域に外部から何らかの力が作用することで地震活動が活発になっている可能性が考えられます。

一連の地震活動が現在も継続している原因については、大別すると、2024 年 1 月の M7.6 の地震の直接の影響(前者)、あるいは前者に加えて外部からの何らかの力の影響(後者)も受け続けていることが考えられます。地震活動を統計的に解析(*2)することで、両者の作用の度合い(後者に関するものを「背景地震活動度」という。)を推定することができます。この解析によると、2020 年 12 月からの一連の地震活動の背景地震活動度は、2021 年の後半から高い状態が続いていました。その中で、2024 年1月1日に M7.6 の地震が発生しました。そのため、現時点では外部からの力の影響の評価は難しくなってきています。

これまでの研究で、同規模の地震が長期間継続するような地震活動の原因として流体の関与が指摘されています。2020 年 12 月からの一連の地震活動についても、少なくとも 2023 年5月の M6.5 の地震の前の地震活動については、水などの流体の移動が関与している可能性が考えられます。詳細は令和4年7月に公表した「石川県能登地方の地震活動に関する地震調査委員長見解」をご覧ください。2020 年 12 月以降、地震活動が活発な能登半島北東部では膨張するような地殻変動が観測されており、この地殻変動の原因を流体の移動と仮定した場合、この変動量から流体の関与の度合いを評価することができます。しかし、M7.6 の地震発生以降、この地震の余効変動が大きいため、M7.6 以前からの地殻変動が継続しているかどうか判断することができず、現在は流体の関与を評価することができません。

上記のように、地震活動及び地殻変動の観測・解析結果を踏まえると、地震活動がいつまで続くのかなど今後の活動を見通すことが難しくなっています。

地震調査委員会は、令和6年8月に兵庫県北方沖から新潟県上越地方沖にかけての海域活断層の長期評価を公表しました。M7.6 の地震の震源断層は、地震後の地震活動の分布や地震波の解析によると、この評価された海域活断層のうち、門前断層帯門前沖区間の東部~能登半島北岸断層帯~富山トラフ西縁断層の南西部にかけての北東―南西に延びる 150km 程度であると推定されています。今回の地震活動により、周辺では地震の発生を促進させるような影響を受けた活断層があることに留意する必要があります。2023 年5月の M6.5 の地震や 2024 年 11 月の M6.6 の地震は、M7.6 の地震の震源断層と異なる断層が活動したと考えられます。また、M7.6 の地震の地震活動域周辺には、すでに評価した海域及び陸域の活断層に加え、海底下浅部もしくは地表での痕跡は不明瞭であるが地震を発生させるような断層も存在している可能性があります。

[防災上、留意して頂きたいこと]
2020 年 12 月からはじまった地震活動は、数カ月から年単位など長い期間で見ると全体としては 2024 年 1 月の M7.6 の地震以降低下しつつあります。しかし、依然として地震活動が活発であることや地殻変動も継続していることを踏まえると、月単位では、現時点程度の活発な地震活動が当分継続することが予想されます。加えて、時々大きな地震が発生し、さらに活発になることもあります。

一連の活動の中では、既に 2024 年 1 月に M7.6 の地震、11 月に M6.6 の地震が発生するなど規模の大きな地震が発生していますが、日本海側では平成5年(1993 年)北海道南西沖地震(M7.8)のように、最大規模の地震発生から数年程度経った後も、 M6 程度の地震が発生した事例があります。また、能登半島の周辺では、今回の 2020 年 12 月からの一連の地震活動以前にも「平成 19 年(2007 年)能登半島地震」など、 M6程度以上の被害を伴う規模の大きな地震が発生しています。

これらのことを踏まえると、M7.6 の地震後の活動域及びその周辺では、地震の規模やお住まいの地域によっては今後も当分の間、強い揺れに注意が必要です。また、海底で規模の大きな地震が発生した場合、津波に注意する必要があります。改めて、日頃からの地震への備えを確認することが大切です。

*1: 2024 年1月1日に石川県能登地方で発生した M7.6 の地震及び 2020 年 12 月以降の一連の地震活動について、気象庁が定めた名称。
*2: 地震活動を定量化する統計モデル(非定常 ETAS モデル)を用いた解析。このモデルは、背景地震活動度や余震の発生強度に対応するパラメータが時間変化すると仮定しており、長期間継続する地震活動の評価に活用することができます。

詳しい資料は≫

1702地球物理及び地球化学
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