活発な赤ちゃん星:B335で行われている宇宙における化学の実験

ad

2024-12-25 自然科学研究機構

537光年先にある非常に若い星、B335は、明るさが変化する原始星です。この原始星を観測したところ、星が生まれるときの化学物質の状態がより詳しくわかってきました。圧倒的な感度と分解能を誇るアルマ望遠鏡を使うことで、原始星が爆発的に増光している最中に複雑な有機分子(Complex Organic Molecules, COMs)の振舞いを追跡することが可能になりました。宇宙で生命が生まれる上で重要な環境の変化を実時間で直接観察することができました。

原始星の成長は一定ではなく、停滞と成長を繰り返しながら、ゆっくりしたペースで大きくなっていきます。その途中で、時々非常に大量の物質が星に落ち込んできます。このとき星の明るさが増し、周囲の塵を温めます。氷の形態で存在していた複雑な有機分子は気体となって解き放たれ、この遊離した複雑な有機分子が放つ電波を電波望遠鏡で観測することができるようになります。
爆発的な増光が終われば、やがて複雑な有機分子は塵の表面で氷の状態に戻るため、複雑な有機分子からの電波は弱くなると考えられます。しかし、今回の観測では予想よりも長く複雑な有機分子の電波が観測され続けました。つまり、複雑な有機分子の再凍結には従来の説よりも時間がかかることがわかったのです。

「この発見は複雑な有機分子が気体の形態から氷の形態に戻ってしまう時間スケールの従来の仮説に異を唱えるものとなります。」と研究チームのリーダー、ソウル大学 チョンウン=リーは語ります。「複雑な有機分子がより長い時間ガスの形態で存在できることで、より多くの情報を電波観測で引き出すことができます。これにより、若い星の周辺で起きる様々な複雑な有機分子の化学的変化の過程を明らかにすることができます。」

アルマ望遠鏡の圧倒的な感度により、本研究では1回の爆発的増光のサイクルについて、初めて実際の時間スケールでの分子変化の追跡を行うことができました。今後、アルマ望遠鏡でこの原始星の観察を継続的に行うことで、ガスの冷却、化学反応、ダスト粒子とその周辺のガスの形態の分子の相互作用の時間スケールを明確にすることができます。
地上の実験室で実験を行うことができる場合とは異なり、天文学者は宇宙で思ったように実験を行うことはできません。しかし、B335の周辺では明らかに、宇宙化学の天然の実験が繰り広げられており、星が生まれ育まれる場所で生命の元となる材料が進化して行く様子が示されていました。

共著者である楊 燿綸氏(理化学研究所)は、「今回のアルマ望遠鏡で得られた結果と、複雑な有機分子がチリの表面に凍結している状態をジェームズウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)で観測したデータを組み合わせることで、複雑な有機分子の化学の全貌が明らかになっていくでしょう」 とコメントしています。

この新たな知見は ” “A Natural Laboratory for Astrochemistry, a Variable Protostar B335”, open a new chapter in studying how the building blocks of life form and transform across the cosmos.”という題でアストロフィジカルジャーナルレターズに掲載されました。

アルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計、Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA)は、欧州南天天文台(ESO)、米国国立科学財団(NSF)、日本の自然科学研究機構(NINS)がチリ共和国と協力して運用する国際的な天文観測施設です。アルマ望遠鏡の建設・運用費は、ESOと、NSFおよびその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾国家科学及技術委員会(NSTC)、NINSおよびその協力機関である台湾中央研究院(AS)と韓国天文宇宙科学研究院(KASI)によって分担されます。 アルマ望遠鏡の建設と運用は、ESOがその構成国を代表して、米国北東部大学連合(AUI)が管理する米国国立電波天文台が北米を代表して、日本の国立天文台が東アジアを代表して実施します。合同アルマ観測所(JAO)は、アルマ望遠鏡の建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とします。

活発な赤ちゃん星:B335で行われている宇宙における化学の実験
図1.アルマ望遠鏡で観測した原始星B335の時間変化。上段:連続波の電波の強さ。中段:複雑な有機分子が放つ電波の強さ。下段:想像図。原始星の増光と同時に周辺で複雑な有機分子が増え、減光後も複雑な有機分子が残り続けているのがわかります。(クレジット: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO) / J.-E. Lee et al.)

B335_PR_movie
図2. 原始星B335の明るさの時間変化。左:中間赤外線で測った全体の明るさ(縦軸の1L☉は太陽1個分の明るさ、横軸は日数)。中:連続波の電波の強さ。右:複雑な有機分子が放つ電波。(クレジット: J.-E. Lee et al.)

Fig3
図3.原始星周辺の状態変化を示した想像図。原始星が明るくなる前は、複雑な有機分子は塵の表面で凍結しています(Phase1)。原始星が明るくなると、温められた塵から複雑な有機分子が遊離し、周辺にばら撒かれます(Phase2)。原始星が減光した後も複雑な有機分子は遊離した状態を保っていました(Phase3)。(クレジット: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO) / J.-E. Lee et al.)

1701物理及び化学
ad
ad
Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました