燃料電池の固体電解質内部における空間電荷層の直接観察に成功 ~電池材料の性能向上に向けた新たな構造制御指針へ~

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2024-10-18 科学技術振興機構,東京大学

燃料電池の固体電解質内部における空間電荷層の直接観察に成功 ~電池材料の性能向上に向けた新たな構造制御指針へ~

ポイント
  • 燃料電池の固体電解質内部における空間電荷層にはイオン伝導を阻害する主要因があると考えられてきたが、その実験的実証は極めて困難であった。
  • 最先端電子顕微鏡を用いた局所電場観察により、空間電荷層の直接観察に成功した。
  • 本成果は、電池材料の性能向上の指針構築につながると期待できる。

JST 戦略的創造研究推進事業 ERATOにおいて、東京大学 大学院工学系研究科 附属総合研究機構の遠山 慧子 助教、関 岳人 講師、馮 斌(フウ ビン)特任准教授、幾原 雄一 特別研究教授、柴田 直哉 機構長・教授は、燃料電池の固体電解質内部における空間電荷層の直接観察に初めて成功しました。

固体酸化物燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cells)は、二酸化炭素の排出が少なく発電効率が高いことから、クリーンなエネルギー源として期待されています。SOFCでは固体電解質としてイットリア安定化キュービックジルコニア(YSZ)などの酸素イオン伝導体が用いられています。しかし、材料内部に無数に存在する結晶粒同士の界面(結晶粒界)において、イオン伝導が顕著に低下することが問題となっており、結晶粒界近傍のナノメートル領域に分布する空間電荷層がその原因になっていることが長年提唱されてきました。しかし、これを直接的に観察することは極めて難しく、結晶粒界に空間電荷層が本当に存在するのか、という根本的な問題も未解明のままでした。

今回、最先端電子顕微鏡を用いた局所電場観察により、YSZの結晶粒界において空間電荷層の存在を直接的に示すことに成功しました。さらに、結晶の方位(結晶構造の中で原子がどのように並んでいるか)が異なる複数の結晶粒界においても同様の観察を行い、空間電荷層が存在しない結晶粒界の発見にも成功しました。また、電子顕微鏡の原子構造観察とも組み合わせることで、空間電荷層が結晶粒界の結晶方位や原子構造と強く相関することを明らかにし、結晶粒界の構造を制御すれば、空間電荷層をなくすことができ、結晶粒界におけるイオン伝導の抵抗を抑えられることを見いだしました。

本研究は、電池材料における結晶粒界でのイオン伝導抵抗の原因解明への大きな一歩であり、今後の電池材料の性能向上に向けた新たな指針の構築につながることが期待されます。

本研究成果は、2024年10月18日(日本時間)に英国科学誌「Nature Communications」のオンライン版で公開されます。

本開発成果は、以下の事業・研究領域によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO)

研究領域
「柴田超原子分解能電子顕微鏡プロジェクト」(JPMJER2202)
(研究総括:柴田 直哉 東京大学 大学院工学系研究科 附属総合研究機構 機構長・教授)

研究期間
2022年10月~2028年3月

JSTはこのプロジェクトで、極低温から高温までの温度領域において原子スケールの構造および電磁場分布を同時に観察することを実現し、物質・生命機能の起源を直接「観る」ことができる、従来の原子分解能電子顕微鏡を超えた「超」原子分解能電子顕微鏡とも呼ぶべき新たな計測手法を構築します。

その他、JST 戦略的創造研究推進事業 さきがけ(課題番号:JPMJPR21AA、JPMJPR23JB)、日本学術振興会(JSPS) 科学研究費補助金基盤研究(S)「原子スケール局所磁場直接観察手法の開発と磁性材料界面研究への応用(研究代表者:柴田 直哉、課題番号:JP20H05659)」、新学術領域研究(機能コアの材料科学 領域代表:松永 克志)「界面機能コア解析(研究代表者:柴田 直哉、課題番号:JP19H05788)」、日本学術振興会(JSPS) 科学研究費(課題番号:JP22H04960、JP20J21517、JP20K15014、JP24K01294)による助成を受けて行われました。

また本研究は、東京大学 大学院工学系研究科 附属総合研究機構「次世代電子顕微鏡法社会連携講座」、東京大学・日本電子産学連携室、文部科学省 先端マテリアルリサーチインフラ事業(東京大学 マテリアル先端リサーチインフラ微細構造解析部門)、附属総合研究機構「次世代ジルコニア創出連携講座」の支援を受けて実施されました。

<プレスリリース資料>
  • 本文 PDF(859KB)
<論文タイトル>
“Direct observation of space-charge-induced electric fields at oxide grain boundaries”
DOI:10.1038/s41467-024-53014-w
<お問い合わせ先>

<研究に関すること>
遠山 慧子(トオヤマ サトコ)
東京大学 大学院工学系研究科 附属総合研究機構 助教

関 岳人(セキ タケヒト)
東京大学 大学院工学系研究科 附属総合研究機構 講師

柴田 直哉(シバタ ナオヤ)
東京大学 大学院工学系研究科 附属総合研究機構 機構長・教授

<JST事業に関すること>
永井 諭子(ナガイ サトコ)
科学技術振興機構 研究プロジェクト推進部 グリーンイノベーショングループ

<報道担当>
科学技術振興機構 広報課
東京大学 大学院工学系研究科 広報室

0402電気応用
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